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今年は“らしくない”遅い時計の上がりだけの勝負に/京成杯AH

  • 2014年09月15日(月) 18時00分


ここ1番になったら「田辺を買っていればいい」。そう信じるファンの期待にまた応えてみせた

 5歳牡馬クラレント(父ダンスインザダーク)が、関屋記念につづいてシリーズのマイル重賞を2つ制し、サマーマイルチャンピオンに輝くと同時に、新コンビの田辺裕信騎手は「七夕賞、関屋記念、京成杯AH」の3重賞を勝ってサマージョッキーズシリーズ(14戦)のチャンピオン決定。念願の『ワールドスーパージョッキーズシリーズ』の出場権を獲得した。

 午後には良馬場に回復したものの、狭いコースゆえやむを得ず、ずっとAコース使用の新潟は、1週間のあいだに懸命に持ち直している芝生が、ここにきて土曜日はともかく、日曜日の午後になるともたずに、内ラチ沿いを避けたくなるコンディションに変化する。

 流れは予測された通りのスローペース「48秒0-45秒3」で展開し、勝ちタイムは1分33秒3。高速決着のつづくマイル重賞とすると、今年は京成杯AHらしくない遅い時計の、上がりだけの勝負になった。みんなスローは予測していたが、いつもの持ち味を生かす形を崩せない差し馬が多かったため、体が減ってカリカリしていた3歳タガノブルグ(父ヨハネスブルグ)がペースメーカーを務めたものの、作りだしたペースは「前半48秒0-1000m通過59秒9…」の超スローペース。

 勝ったクラレントは、もともと自在脚質でもあり、冴えわたっている田辺騎手とあってたちまち好位確保。さらに途中からは、内ラチ沿いから5、6頭分も離れた2番手をすんなり追走する形になった。追い比べになっては必ずしも鋭くないタイプのうえ、ハンデは58キロ。長い直線に向くと、あまり待たずに早め早めのスパートに出た積極騎乗も見事だった。

 前日土曜日の10Rで、馬が故障したための危ない落馬があり、以降のレースは乗り替わって心配させたが、日曜の1Rでいきなり勝ち、最近、ここ1番になったら「田辺を買っていればいい」。そう信じるファンの期待にまた応えてみせた。5歳クラレントの3歳以降の5勝(すべてG3重賞)は、みんな左回りの東京と新潟であり、京都コースは2連勝でスタートした2歳戦を別にすると、昨秋のマイルチャンピオンSなど3歳以降[0-0-0-2]。上がりの速くなる京都に死角はあるが、これで11月のG1マイルチャンピオンシップを目指すことになる。

 2着に突っ込んできたブレイズアトレイル(父ダイワメジャー)は、関屋記念こそ5着(0秒4差)にとどまったものの、これで新潟[1-2-0-1]。祖母は秋華賞を制した勢いにのってジャパンCも微差2着した名牝ファビラスラフイン。オープンに昇級後はずっと善戦にとどまってきたが、ハンデ戦のスローの平坦コースとはいえ、自身、初めて上がり32秒8を記録した。ジリ脚から脱却するなら、マイル戦でもうひと回りのスケールアップが望める。

 前回は渋った馬場を気にしてまったくいいところがなかったミトラ(父シンボリクリスエス)も、うまく折り合えば、1400-1600mならこのくらいは走って不思議ないだろう。

 伏兵陣が好走した一方、人気上位馬で案外の内容だったのは、1番人気のサトノギャラント(父シンボリクリスエス)。今回は互角のスタートから折り合って進み、直線は思い切ってみんなの嫌った内ラチ沿いに進路を取った。一度は先頭に立ちかけたシーンもあり、インコースが好ましい芝状態でなないとはいえ、めったに芝が悪化することはない内ラチ沿い1頭分を狙ったのは、外に出せなかった同馬とすれば、(決まれば)ファインプレーだったろう。スロー向き差し馬でもある。

 ただし、このサトノギャラント、東京の坂下までずっと我慢し、坂上から密集した馬群を割って抜けるレースが印象に残るように、とにかく爆発力を生かすのが難しいタイプ。今回も絶妙の騎乗がうまくいったかと思えたのは一瞬だけ。鋭い脚が長つづきしなかった。

 素晴らしい切れを持つ追い込み馬だが、新潟の直線は長すぎるのだろう。失速は完全な良馬場ではないのに、渋ったインを通ったからではないと思える。

 このサトノギャラントの半弟キングズオブザサン(父チチカステナンゴ)にも同じようなところがあり、はまったかと思えた春のNHKマイルCも、ゴール寸前に鋭さが鈍って3着だった。今回もクラレントに食い下がって、そのまま2着確保でも不思議なかったが、ゴール寸前に差し込まれている。母にスティンガーをもつこの兄弟、マイルは十分に守備範囲だが、直線の長いコースでは1400mの方がいいのかもしれない。チチカステナンゴの弟はともかく、兄サトノギャラントの新潟の1600mは、上がり32秒3の谷川岳Sでも寸前に差し返されたくらいだから、どう乗っても直線が長すぎた。

 エキストラエンド(父ディープインパクト)は、陣営が「絶好調」とした前回の関屋記念で横を向いてもぐろうとした瞬間にスタートが切られ、大きな出遅れ。直線だけのレースだったから消耗はなかったが、リズムが狂ってしまったか。立て直した今回は気配一歩だったうえ、スタートで気合をつけて行く騎乗もこの馬には合わなかった印象がある。先入観なしの三浦皇成騎手なら、また違った結果が出そうにも思えたが、凡走に終わったとはいえせっかく互いの意志の疎通が図れたように映った前回から、またまた騎手をチェンジした選択の失敗だろう。

 ハンデ頭のサダムパテック(父フジキセキ)は、1分37秒1(自身の上がり36秒1)の中京記念1着から、今回は1分33秒7(上がり33秒4)で8着。マイルではちょっとズブくなっているから、まったく別のレース内容に対応できなかった。

 昨年の勝ち馬エクセラントカーヴ(父ダイワメジャー)は、繊細な牝馬だけにコンビの戸崎圭太騎手からの乗り代わりが痛かった。体もさびしく映った。直線、大きな不利を受けたが、抜かれた馬に前に入られたもので、抜かれた時点で脚はなかったろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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