中身の濃い秋華賞
クッションのきいた走りやすい芝で、もっとも速い時計が出やすい10月の京都とはいえ、1分57秒0(レースの前後半は58秒0-59秒0)の秋華賞レコードが飛び出した。
もっと時計が速くなって不思議ない高速コンディションだった年もあるが、第1回、ファビラスラフインの持っていた最高タイム1分58秒1(レースの前後半は58秒7-59秒4)を、一気に1秒以上も塗り替えてみせた。果敢に飛ばしてレースを盛り上げた伏兵グループも、持てる能力全開となって1分57秒台前半で乗り切った上位陣も、中身の濃い秋華賞だった。
勝った
ショウナンパンドラ(父ディープインパクト)は、春のクラシックにはもう一歩のところで出走できなかったものの、夏を過ぎて急速にパワーアップ。これで【3-4-0-2】のGIホースとなった。着外2回も小差の5着。すべて掲示板に載っている。
飛ばす先行集団からちょっと離れた中団で、直後に
タガノエトワール(父キングカメハメハ)、
ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)がいる展開。予想以上のハイペースでレースが流れるなか、レース前半から理想のポジションにいたのが、上位3着までを占めることになった(3,1,4,)番人気の3頭だった。
内回りの4コーナーから直線に向くあたり、約328mの内回りの直線をロスなく乗り切るために迷わず内を狙ったのが、浜中俊騎手のショウナンパンドラ。ほぼ同じような位置で、パンドラの左隣りにいたのがタガノエトワール(小牧太)、その直後がヌーヴォレコルト(岩田康誠)である。すぐ前の
マイネグレヴィル、
ブランネージュの内に突っ込んだのが、3頭のなかでもっとも前にいて、一番早くスパートを開始したショウナンパンドラ。同じタイミングでスパート体勢のタガノエトワールは、ショウナンパンドラに空いていた内に行かれてしまったから、自分の前にいた先行集団のマイネグレヴィル、ブランネージュ、
マーブルカテドラルをかわすためには、その外に回らざるを得なかった。この2頭を見ていたヌーヴォレコルトにも内を狙うスペースはない。もとより、待っても空かない危険の大きい内を、ショウナンパンドラのあとから狙う立場(断然の1番人気)ではない。
あくまでレースの流れや、先行集団のバラけ方による結果ではあるが、ショウナンパンドラの浜中俊騎手のファインプレーは、有力馬のなかで「もっとも前」に位置していたこと。だから、前の集団の動きを見つつ自分でインを衝く作戦が可能だった。果敢な挑戦者である。
ショウナンパンドラに狭いスペースしかないインを選ばれてしまったタガノエトワールと、さらにその直後にいたヌーヴォレコルトには、インを衝くコース選択は残されていなかったのである。
管理する高野友和調教師(38)は、JRA重賞初制覇が、GI秋華賞だった。松田国英厩舎の調教助手時代は、ダイワスカーレット、ダイワエルシエーロなどの快走に声を上げて泣いた涙もろい男だったといわれる。調教師になったいまは、スタッフの努力を称えながら、すごく静かにレースを見るのだという。おそらく、これから何回も、何度も、ビッグレースの勝ち馬を手がけることになるのを予感しているからだろう。
ヌーヴォレコルトも満点の騎乗、タガノエトワールもいずれ主役に
ヌーヴォレコルトは外に回って一完歩ごとに内から抜け出したショウナンパンドラを追い詰め、着差「クビ」で、オークスにつづく2冠を逃がしてしまった。同タイムの1分57秒0。上がり3ハロンは勝ち馬を0秒3上回る「34秒0」だった。栗東に滞在したのが大正解、2週連続して3頭併せで追いながら、前走比プラス10キロ。斎藤誠調教師(43)以下のスタッフの仕上げも、前回のローズSとは前半1000m通過が約2秒も速い流れを読んで、負担なく追走できる中団に位置した岩田康誠騎手の騎乗も、100点満点だったと思える。競馬には勝ち馬と、2着馬が生じる必然があり、その違いは、ほんの小さな「運の味方」だけ。ヌーヴォレコルトは、3歳牝馬3冠を「3,1,2」着。その差は「0秒1、0秒0、0秒0」である。ハープスター、ショウナンパンドラと1冠ずつを分け合うことにより、素晴らしい世代であることを十分に示す主役となっているのだから、ヌーヴォレコルトは、今回はたまたま2着でも決して敗者ではない。
寸前でヌーヴォレコルトに交わされて3着にとどまった3着タガノエトワールは、桜花賞が終了してから5月にデビューし、前回のローズS2着は未勝利を勝ち上がった直後の1戦であり、ここが5戦目であることを考えると、あと半年もすると、ショウナンパンドラや、ヌーヴォレコルト、そしてハープスターとビッグレースを争う4歳牝馬に育っていること必至である。
4着ブランネージュ(父シンボリクリスエス)の上がり3ハロンは、先着を許した上位の3頭よりずっと遅い34秒7。しかし、これはみんな失速に追い込まれたハイペースの「先行集団8頭」の中で、この馬だけが失速しなかった数字でもある。4コーナーでうまく前をさばくことができたなら、もっと差はなかったかもしれない。
2番人気の
レッドリヴェール(父ステイゴールド)は、0秒6差の6着にとどまったが、スタートが決まらず後方に位置する展開になり、決してスムーズな追走ではなかったことを考えるなら、凡走という敗戦ではない。自身、1分57秒6である。今回は、春の桜花賞2着時と同じ418キロの馬体重。ステイゴールド産駒に小さい体うんぬんは関係ないが、多頭数だと馬群をさばかなければ進出できない。密集した場所には突っ込みにくい。今回の418キロは巻き返しをはかったギリギリの仕上げであり、あまりムリをできないのが弱みだろう。
それは、今回404キロだった
サングレアル(父ゼンノロブロイ)も同じ。秘める才能はだれもが認めるが、こういう多頭数の小回りコースのレースは合わないだろう。サングレアルが密集した馬群のなかに突っ込んでいくシーンを思い描くのは、けっして楽しい想像ではない。外からメンバー中No.1の上がり「33秒9」で差のない5着は好走だろう。3歳春から「18、18、17、17」頭立てのレースに出走してきたが、これからはこんなに多頭数のきびしいレースに出走しなくてもいいはずである。
レーヴデトワール(父ゼンノロブロイ)は、この枠順だから、激しいペースになった先行集団に入って追走のスタミナロスが響いた。プラス4キロの456キロでも、腹が巻き上がってパドックに入ってきた瞬間から小さく映った。GIは、みんなが絶好調はありえない。