ジェンティル「休みあけ苦手」の定説は大間違い/トレセン発秘話
◆世界の名手ムーアが「(参戦するようなら)凱旋門賞もジェンティルドンナに乗りたかった」とほれ込んでいる事実は見逃せない
第150回天皇賞・秋(11月2日=東京芝2000メートル)を占ううえで最大のキーホースとなるのはジェンティルドンナだろう。この後、ジャパンC3連覇の偉業に挑む女傑にとって、秋天の勝負気配は不明瞭なうえに、そもそも休み明けは走らない傾向にある。果たして買うべきか、買わざるべきか。ジャッジはデビュー以来、ジェンティルドンナを見守り続けてきた担当記者に託そうではないか。真摯な姿勢と柔らかい物腰で関係者の懐に飛び込むことから“ジェンティル高岡”の異名を取る高岡功記者が「トレセン発(秘)話拡大版」で女傑の真実に迫った――。
競走馬には得意、不得意な条件が必ずある。平坦コースじゃないと走らないとか、道悪になると途端に力を発揮するとか、なぜか休み明け初戦に激走するなどなど。タイプは様々だが、そういった条件の数々が個々の特徴を形作り、年齢を重ねれば重ねるほど、鮮明な“キャラクター”として定着する。
すでに5歳秋を迎え、年内いっぱいでの現役引退が伝えられているジェンティルドンナ。キャリア16戦を数えるこの馬が苦手とする条件は「右回り」「休み明け」「道悪」が“一般常識”となっているが…。調教パートナーの井上助手はこの“馬キャラ”に真っ向から反論する。
「休み明けで負けている時は全部馬場が悪い時。本当の良馬場でやった時はだいたい勝ち負けになっている。馬場が悪いと良くないことだけは確かだけど、しっかり仕上がってさえいれば、右回り、休み明けとも苦手にはしていない」
ジェンティルドンナが連対を外したケースは過去4回あるが、そのうちの3走は発表上は良馬場でも実際はかなり馬場が悪かった昨年&今年の宝塚記念と、稍重で行われた今年の京都記念(残り1走は中間熱発のアクシデントがあって順調さを欠いたチューリップ賞)。それ以外は右回りでも、休み明けでも、最低2着は死守している。
そもそも東京を舞台とする天皇賞・秋はご存じ左回り。今回の場合は「右回り」自体は最初から問題にはならない。となれば残った「休み明け」と「道悪」が重ならない限りはパフォーマンスを致命的に落とす条件にはなりえないのだ。もちろん、3連覇の偉業が懸かる次走のジャパンCがジェンティルドンナのクライマックスになることは確かだろうが、だからといって、休み明けのこの天皇賞で大きく割り引く必要はない。
京都記念(6着)、宝塚記念(9着)がともに掲示板を外す失態だったことから、今年のトータルパフォーマンスの印象は決して良くないだろうが、思い出してもらいたいのはその間のドバイシーマクラシックだ。
直線では絶体絶命の位置から強引に外に出すと他馬とは次元の違う末脚で圧勝。現地に同行した井上助手によるとレース後の鞍上ムーアはそのパフォーマンスの高さに興奮しまくっていたとか。
「あがってくる時にめちゃくちゃ馬を愛撫しまくって喜んでいたし、早く鞍を外してあげてくれってしきりに言っていた。あの勝ちっぷりには本人も驚いたんちゃうかな」
なんでも今年の凱旋門賞にタペストリーで臨む時も「(参戦するようなら)凱旋門賞もジェンティルドンナに乗りたかった」と漏らしていたとか。世界の名手がそこまでほれ込んでいる事実は見逃せない。
3連覇を懸けた次走のJCにはそのムーアが騎乗予定にもかかわらず、今回はピンチヒッターとして戸崎圭が騎乗する。ここにも休み明けながらジェンティルドンナが好走する可能性が上がる確かな理由が生まれる。
2週前、1週前とジェンティルドンナの追い切りのため栗東トレセンにやってきた戸崎圭は動きに関して「2週前に比べて、1週前追い切りでは馬にスイッチが入って全然違った。さすがという動きだったし、とにかく馬が何をするべきか分かっていて賢いという印象ですね」と話す一方、今年全国リーディングトップの位置にいながら、いまだJRA・GIを勝っていないことを問われて「そこはちょっと箔をつけておきたいという気持ちはあります」と本音を吐露した。
今年9月7日に恩師である船橋競馬の川島正行調教師が死去。中央競馬の頂点に上り詰めることを誰よりも期待していた師匠のために、昨年にも増して貪欲な姿勢を見せている戸崎圭にとって、この天皇賞はリーディング1位に箔をつけて取るための大事な一戦なのだ。
休み明けでも馬場さえ良ければ最低限の仕事は果たす馬と、代打で最高の結果を明確に狙っている鞍上。その2つから導き出される結論は「勝ち負け必至」以外にない。
(栗東の坂路野郎・高岡功)