◆様々な形での「メッセージ」
先日、出版社を通じて小桧山悟調教師に新刊を送ったら、礼状に、スマイルジャックの引退式当日の写真を同封してくれた。
紙焼きのなかのスマイルは、耳をピンと立て、静かな目でこちらを見つめている。その優しい表情を眺めていると、コビさん(小桧山調教師)は「自分のことは覚えていない」と言っていたが、カメラを向けているのが誰かをちゃんとわかっているのではないかと思えてきた。
「スマイルジャックも先週末に試験種付を済ませ、精虫検査も合格し、あとは種馬登録をすれば2015.2.15から種付けを開始できるとのことです」
コビさんからの手紙にそう書かれていた。
ものすごく嬉しかった。
――やったな、スマイル! お前、ついに男になったか。
他人(馬だが)が異性を知ったことをこんなに喜んだのは、もちろん初めてのことだ。
私は、競走馬を引退して種牡馬になると、老成しておとなしくなるものと思い込んでいたのだが、種付けをしたことによって「野性」が目覚め、年をとったのにかえって荒々しくなることもあるという。
スマイルの場合、現役時代から野性が目覚めていたので、おそらくそのままだと思うが、ともかく、一頭でも多くのお嫁さんに恵まれてほしい。
「小桧山の知り合いが点と線でつながってスマイルを種牡馬にしてくれたので……何とか一頭でも中央で勝ち馬を出してやりたいものです」
と手紙を締めくくったコビさんは来週新冠に行くようなので、私もできれば同じ日にスマイルに会いに行きたいと思っている。
このところ、スマイルと、自分の本の話ばかりしているような気がする。スポーツ選手や芸能人、政治家などと違い、物書きの日常にはあまり劇的な材料はない。ひとつ大きなイベントがあると、そのネタを引っ張りがちになることをお許しいただきたい。
自著『虹の断片(かけら)』が発売されてから1週間ほど経った。それを読んだ感想をツイッターやフェイスブック、メールなどで寄せてくれる人が少しずつ出てきて、嬉しく思っている。
そのうちのいくつかを紹介したい(一部、略するなどした)。
「途中涙がとまりませんでした。今も感情がわき上げてきます。
ドラマの様に頭の中に風景が浮かび、映画やドラマになったら誰を役につけるのだろうと。一頭一頭のドラマや騎手のドラマ、それにひきつけられる魅力はこれだったのかと。シベリアで無念の死を余儀なくされた前田長吉さんも戦争のない今の世の中に生まれていたら……」
「競馬を見始めてから10年が経過しましたが、日本競馬の歴史には殆ど疎く、この本を読んで改めて近代競馬の陰に様々な人がいたことを知りました。
読みながら、まるで大河ドラマでも見ているかのような気持ちにさえなりました。
シービスケットやビッグレッドは映画化もされましたが、日本の近代競馬の成り立ちだって十分、ドラマ化、映画化されても素晴らしい作品になるんじゃないかと思います。
そう思わせてくれた著書でした」
また、グリーンチャンネルなどでおなじみのタレントの稲富菜穂さんも、
「ロケの合間にも虹の断片。読みやすくて止まらない!読んでてワクワクする」
と写真付きでツイートし、その後のツイートに「映画化希望!!!」と加えてくれた。
こんなふうに映像化について言及してくれるのは、自分のなかで立ち上げた斉藤すみや前田長吉、函館孫作などの登場人物や、彼らを含む風景などのイメージ(像)を好きになり、愛着を抱いてくれたからだろう、と、都合よく解釈している。
担当編集者のH氏以外で、最初に読了して感想を聞かせてくれたのは、ナンバーウェブ編集者の中野知功さんだった。
「とても面白く、壮大な物語でした」
これは騎手ひとりひとりの物語なのだが、それらがつながり、大きな日本競馬史の流れとして受けとめてくれたのだろう、と、嬉しかった。
先週の本稿で行ったサイン本プレゼントにも、たくさんの方が応募してくださったようで、感謝している。私宛てのメッセージを書くスペースもあるという。正直、ちょっと、というか、かなりビビっているのだが、みなさんの声が届くのを楽しみにしている。
今回は、コビさんからのメッセージを読者からのメッセージにつないでまとめようと思っていたのだが、もうひとつ、ビジュアルによるメッセージで、私が好きな作品を紹介したい。
写真家の内藤律子さんによる「2015年内藤律子サラブレッドカレンダー」である。
豊かな自然のなかで伸び伸びと過ごすサラブレッドの姿が活き活きと、そして何より美しくとらえられている。
私は目覚めるとまず目に入るところにディスプレイしており、毎朝これを見るたびに瑞々しい気分になり、
――さあ、きょうも頑張ろう。
と自分にスイッチを入れている。
「ターフィー通販クラブ(http://shop.prc.jp/)」などでも入手できるので、まだ来年のカレンダーを買われていない方にはおススメである。