▲新人がやるようなこともたくさんやった…藤原厩舎で学んだ日々を振り返る
最初に浮かんだのは、岡部幸雄さんだった
藤原厩舎の調教を手伝う傍ら、ダーくん(藤原調教師)や調教助手にいろいろアドバイスをもらいながら、馬術のベーシックな部分を学ぶ日々が始まった。競馬学校で初期に行う「アブミ上げ」(アブミに足を乗せずに馬に乗ること)という訓練があるのだが、ダーくんにはそこからやるようにいわれた。
アブミ上げの目的は、騎座(馬上で安定を保つため、騎手の両膝が馬体を挟み込む部分)をしっかりさせること。10年のキャリアがありながら、自分はそれがまずしっかりしていなかったということだ。だから調教中、ダーくんによく「アブミ外せ!」と言われ、「アブミ上げ」の状態で歩かされた。あるときなんて、ほかの厩舎の馬に乗っているときにも「アブミ外せ!」といういつものダーくんの声が聞こえてきて、「いやいや、ほかの厩舎の馬ですから」と答えたら、「いいから外せ!」と。さすがにそれはない(笑)。
そんなこんなで、基礎ということについては、本当にゼロからスタートした。GIをいくつも勝っている30過ぎのジョッキーが、毎日のように「アブミ上げ」。それはとても不思議な光景だったようで、「デビューしたてのアンチャンがやるようなことを、何で今さらやってんだよ」と揶揄してくる人もいたが、外野の声はまったく気にならなかった。ただひたすら、言われたままに馬に乗る。そんな日々だった。
自分には、こういうときに邪魔をするプライドがない。もちろん、人として、ジョッキーとしてのプライドは、別の部分で持ってはいるが、こういうことで周りに何かを言われても、「言いたい人には言わせておけばいい」とさらっと受け流すことができる。いちいち気に病み、傷ついてしまうようなプライドは、そもそもプライドとは言わないし、そんなものは邪魔なだけ。何でもそうだが、変化を恐れていては、始まるものも始まらない。