▲GI2勝、佐藤哲三元騎手との名コンビでも印象深いタップダンスシチー
佐藤哲三元騎手の名前を聞いた途端に大暴れ!
今週末は、中山競馬場で中央競馬の今年最後の大一番、有馬記念が行われる。心に残る名場面はいくつもあるが、2002年の有馬記念で12番人気と低評価だったタップダンスシチーが、後続を引き離して4コーナーを回った時の場内のどよめきが、脳裏に焼き付いて離れない。
ゴール直前にシンボリクリスエスに差し切られはしたものの、あの時の衝撃はいまだに忘れることができないでいる。それまでも朝日チャレンジC(GIII・2002年)に優勝してはいたが、GI級の馬なのだとファンにしっかりと認知されたのは、あの有馬記念だったのではないかと、勝手ながら思うのだった。
▲2004年の宝塚記念優勝時
そのタップダンスシチーは今、茨城県内の「ポニーパークあるふぁ」で暮らしている。
自身が3連覇した金鯱賞が行われる12月6日(土)には、中京競馬場で久々にファンの前に登場して健在振りをアピールしたばかりだ。今回、「友駿ホースクラブ」と「ポニーパークあるふぁ」のご厚意により、中京でのイベントの疲れが癒えた頃を見計らって、繋養先を訪問させていただいた。
中京競馬場から帰ってきた後は「多少疲れてはいるみたいですね。『何なんだよ〜』という感じで、ちょっとイライラもしているみたいです」とポニーパークあるふぁのMさん。競馬場に連れていかれたことに、タップは少し怒っているのかもしれない。
8歳まで現役を続け、ジャパンC(2003年)、宝塚記念(2004年)とGI2勝をはじめ、前述通り、金鯱賞(GIII)3連覇(2003〜2005年)も含めて重賞7勝を挙げた。さらに有馬記念では2着2回(2002、2004年)、凱旋門賞(2004年)にも挑戦と、ファンを長い間魅了し続け、2005年の有馬記念(12着)を最後にターフに別れを告げた。
引退後は日高町のブリーダーズSSで種牡馬となったが、残念ながら活躍馬を送り出すことができずに、2011年の種付けを最後に繁殖登録を抹消された。その後は乗馬となるべく去勢をされ、ノーザンホースパークやノーザンファーム天栄などを経て、現在は「ポニーパークあるふぁ」で余生を過ごしている。
「ここに来て、正月を越すと3年目になります。みんなタップって呼んでますね。来た当初は、噛むわ、蹴るわで大変でした(笑)。スタッフ全員が噛まれてますよ。みんな腕に青あざを作ってました(笑)。ボロを取ろうとしたり、ちょっとどいてと馬体を押したら、蹴とばしてきます。蹄洗場に繋いでいる時に前をウロウロすると、イラーッとしてガブッと来ますよ。甘噛みではなく、本気です(笑)。まあ気をつけていれば、だいぶしなくなってきましたけどね」(Mさん)
主戦だった佐藤哲三元騎手が「上から目線だった」とタップについてインタビューに答えていたと記憶しているが、現役時代もここでも俺様振りは変わらないようだ。
そんな俺様を溺愛してくれているのが、タップ担当の女性スタッフだという。
「馬が怒っても、『タップ〜、タップ〜』と呼びかけて可愛がっていますからね。不機嫌な顔しやがって〜(笑)と、私たちはタップに対して思ったりもするんですけど、その子は『またそんなに怒っちゃって〜』とか言って、楽しそうにやっています」
中京競馬場でのお披露目には、その担当者がお世話係でついていったというが、「現役時代のパドックをYouTubeでも見たのですが、まあ走ってますよね、歩いてないですもんね(笑)。なので、中京のパドックに行ったらウチのスタッフでは抑えきれないと思い、馬を引くのは向こうの方にお任せしたんですよ」
それでもタップは、パドックを1周回って出口から出ていこうとしたり、イベントで佐藤哲三元騎手の名前がアナウンスされた途端に大暴れしたり、お披露目終了後の地下馬道でバンバン飛び跳ねながら戻っていったりと、らしさを存分に発揮していたという。
「絶対、そうなると思っていました(笑)。ここでも放牧に出す時にはすごく大人しいんですけど、帰りはご飯、ご飯、ご飯っていう感じで、チャッカチャカ、チャッカチャカやっていましたからね。もう外に行ったらどうなるかわからないなと…(笑)」(Mさん)
▲2014年12月6日の金鯱賞当日に中京競馬場でお披露目されたタップダンスシチー(撮影:赤見千尋)
後ろ脚で飛んで後ろ脚で着地!?
そんなタップだが、意外な素顔も持ち合わせていた。
「人間には厳しいですけど、ポニーにはデレデレです(笑)。タップが丸馬場にいる時に、周りをポニーが走っていると『いいな〜』って目がハートになって見ています(笑)。タップを1頭で放牧している時に、前をポニーが通ると『お前、今日はこっちの放牧地に来ないのかい?』と呼びかけるように、ブルブルッと鳴いていますしね。ポニーと一緒に放牧している時も、とても大人しくしています」(Mさん)
「ポニーパークあるふぁ」には、サラブレッドやタップがお気に入りのポニーなど20頭前後が暮らしているのだが、サラブレッドに対してはどういう態度を取るのだろうか?
「何もしない馬は平気ですけど、タップに近づいてきてピーピー言うような子には『うるせえ』という感じで蹴とばしたりしています(笑)」
▲大好きなポニーとじゃれ合う、俺様の意外な一面
大きいものには強さをアピールし、小さいものには優しい。男気溢れるタップのエピソードを聞いて、改めて惚れ直したのだった。
朝7時に朝ご飯を食べ、8時からはのんびり外で過ごす。馬場の空き具合によっては、午前に引き続いて放牧の時もあれば、人が乗ったり、調馬索で運動したりという午後もある。そして、ご飯ご飯と馬房に帰って、夕飼を食べる。これがタップの日常だ。
話を聞く限り、気ままに過ごしている感のあるタップだが、乗馬としても俺様振りを発揮している。
「途中までは乗馬的な動きを我慢して大人しく従っているんですけど、そのうち『やってられるか〜』と、ブチッと切れて時々弾けています(笑)。最近は暴走はしなくなりましたけどね。まあ乗っている子もわかっているので、少しだけ乗馬的な運動をして、あとはパーッと走って、はい終わり〜と帰ってきます。
でも走路を走らせると真っ直ぐきれいに走ります。本当に時々なんですけど、怪我をして休んでいた厩務員さんのリハビリをタップにお願いするんですね。真っ直ぐ走ってくれますし、そういう時は他の馬よりタップの方が安全なんです。乗馬的な動きよりも、直線運動の方が楽そうですよね。
障害飛越のセンスも残念ながらないんですよ。とりあえず飛ぶんですけど、後ろ脚で飛んで後ろ脚で着地するんです。立ち上がった拍子にジャンプして(笑)。『ピョッコン、おっ…』という感じで(笑)、何でそうなるのという飛び方をします(笑)」
真っ直ぐ走るのが得意なのは十分過ぎるほど理解できるが、後ろ脚で飛んで、後ろ脚で着地するというのが、なかなか想像できない。器用なのか不器用なのか、実際にその姿を見ていないので、どう判断して良いのかわからないが、1つ言えるのは、タップは馬一倍個性が強いということだ。
最近はファンの前に登場する機会がなかっただけに「中京競馬場でお披露目できたのは本当に良かったです」とMさんもホッとした様子だ。「中京だと遠いので、今度はジャパンCを勝った東京競馬場で…と思ったりもしています」(Mさん)
種牡馬としての第二の馬生は、タップにとっては不本意なものだったかもしれない。けれども、俺様振りを発揮しながら、大好きなポニーや溺愛してくれるスタッフがいる現在の暮らし向きを知れば知るほど、タップにとって第三の馬生は居心地の良いものなのではないかと感じた。
有馬記念での場内のどよめきも、ジャパンCでの喝采も、種牡馬時代の屈辱も、タップにはもう関係ないのかもしれない。
(取材・文・写真:佐々木祥恵)
※タップダンスシチーの一般見学は受け付けておりません。ご了承ください。
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