アンビシャスにかける音無師の並々ならぬ熱意/吉田竜作マル秘週報
◆音無師は「うまくいけば3月1日以降にはずっと乗れるようになるから」とルメールへオファー
マスコミ業界には「年末進行」という言葉があり、年末年始は新聞、雑誌などの発行、発刊が変則的になる。
マスコミ各社とて、いち民間企業。ぶっちゃければ、正月休みを取るために前倒しで仕事を終わらせ、休めるところは休もうとするからこその「年末進行」でもある。例えば「正月特番」と銘打ったテレビ番組の大半が年内に収録されたものなのはご存じの通りだ。
年末年始のニュースは掘り下げたものが出にくいのも「年末進行」の影響と無縁ではなく、競馬についても同じことが言える。もはや「国民的行事」となった有馬記念はさておき、重賞に昇格したホープフルSのレベルは? また出世レースのエリカ賞は? このあたりのニュースでも露出が少なくなってしまった。
ということで今回は昨年暮れの阪神開催最終日(28日)にひっそり? 行われた千両賞(2歳500万下、芝外1600メートル)の勝ち馬アンビシャスに改めてスポットを当ててみたい。
さかのぼれば2歳王者を決する朝日杯FSに登録したこのアンビシャス。1勝馬の枠がないのは1週前の登録の段階でハッキリしていた。普通ならあっさりと諦めるものだが、当時の音無調教師は明らかに違った。
「何かやめた馬はいないのか? 切れ味ではヒケを取るとは思っていないし、使いたいんだけどな。何とかならないか…」
ギリギリまでほとんどゼロに近い可能性を追い求めていたのだ。音無調教師がそうまで大舞台への出走を願うほどの器の大きさは、この千両賞のレース内容に見てとれる。
道中は中団の外めを追走。スローに流れた上に、前に壁が作りにくいポジションでも、目立って折り合いを欠くこともなく、スムーズに直線を迎える。先行集団が懸命に追うのを尻目に、アンビシャスの手綱を取った松山は持ったまま。坂の上りで追い出すと、父ディープインパクトとダブるダイナミックなフォームで加速。余裕を持って2着以下を退けた。半馬身という実際の着差以上の能力差をハッキリと示す内容だったのは、レース後の音無調教師のテンションの高さにも表れていた。
「直線の長い外回りだったから、先頭に立ったときは“早いかな”と思ったけどな。思っていた以上のレースぶり。とにかくセンスがいいよな」と大絶賛し、朝日杯除外のうっぷんをきっちり晴らしてみせた。
気になるのは今後。馬の入れ替えが盛んな音無厩舎にあって「気難しいところもあるので、あちこち出さずに厩舎に置いて調整する」と発言したことで並々ならぬ手応えが伝わってくるが、どうやらターゲットを2月15日のGIII共同通信杯(東京芝1800メートル)に定めたようだ。
「経験のない左回りと1ハロンの延長を試すにはちょうどいい舞台。これで距離をこなすようなら皐月賞となるし、負けるようならNHKマイルCを目指すことになるかも」とのことだが、その口ぶりが自信たっぷりだったのは言うまでもあるまい。
さらに春からの注目のパートナーも、デビュー戦を快勝に導き、「うまくいけば3月1日以降にはずっと乗れるようになるから」とJRAへの移籍が濃厚なルメールへのオファーも明かした。
このままトレーナーの青写真通りに事が運べば…ヴィクトリー(07年皐月賞)、オウケンブルースリ(08年菊花賞)に続く牡馬クラシックのタイトルが見えてくる。