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カジノ解禁で競馬は?!有識者座談会(3)『日本でカジノを実現させるためのシナリオ』

  • 2015年01月26日(月) 12時00分
おじゃ馬します!

▲「本当にカジノをやるのであれば、まずやるべきことがある!」と発言する野元賢一さん


前回、「カジノが競馬に及ぼす影響はあるのか?!」を検討した結果、パチンコ業界は影響を受ける可能性はあるけれども、競馬には大きなデメリットはないのでは、という見解に。では、日本でカジノを実現させるなら、それも競馬にもメリットのある形とすれば、シナリオはどんなものが考えられるのか。そして、カジノ導入ならば、その前に決着をさせたい課税問題。未だ争いが続いている馬券裁判とも絡めて、座談会の最終回は、気になるこの話題も深く掘り下げます。

(出演者:須田鷹雄さん、日経新聞・野元賢一記者、目黒貴子さん、司会:赤見千尋さん)



競馬とカジノの課税問題


(つづき)

赤見 カジノ法案を進める上で気になるのは、税金問題かなと思うんです。本当にカジノ法案が通るとしたら、今の馬券裁判の辺はクリアにしてもらわないと!

目黒 本当にそうですよね。競馬は控除率25%で、さらに儲かった人に課税するという動きまであるなか、カジノだけ優遇されたら、それは黙っていられないです。

須田 競馬側で最低限の線として考えられるのは、年間通算の損益で考えることでしょうね。それで年間でプラスになった時には税金払ってくださいと。そう言われるぐらいは競馬ファンも容認するかもしれない。

目黒 たしかに馬券を買っている人って、儲からないのも分かってやっているところがありますもんね。そういう許容度はありそうです。

須田 そうすると競馬からは「競馬がこうなんだから、カジノもそうでしょうよ」と言うわけです。でも、カジノを熱心にやる人は、多分飲めないと思うんですよ。だって、奇跡を起こしてカジノで通年で勝ったのに、そこから税金取られたら、こんなもの成り立たないだろと。

目黒 宝くじは控除率が高いから非課税、競馬はそこまでじゃないから課税、という意見もありますが、それで言ったらカジノゲームのハウスエッジはもっと小さいので当然課税、ということになりますよね。

須田 ましてや、今の大阪国税局の競馬に対する言い分が通っちゃったら、カジノも当然ワンプレーごと、勝ったときのみカウントの課税だと。これはもう、ゲームのデザインとして破たんしてます。たぶんここは僕が1人で騒いでいるテーマなんですけど(笑)、競馬の世界の人は、「競馬の税金がこうだったら、カジノなんてもっとひどいことになるぞ」ということを大声で言わなきゃいかん! だから本当は、それを競馬会からいろんなメディアに言ってほしいんですよ。

赤見 競馬から発信することで、今カジノを作ろうとしている人たちも、課税に関してはこっちの味方になりますね。

須田 そう。でも、そういうことをやらないのが競馬会で。そういう面では、カジノの人たちと比べて上品過ぎて、戦闘力に欠けるんですけどね。

目黒 非公式に伝える、という手もありそうですけどね。

須田 でも、それでぼ〜っとしていたら、競馬だけ理不尽な課税でカジノは損益通算とか、ましてや無税とかにされかねないじゃないですか。宝くじは控除率50%だけど配当には無税。競馬が25%で、カジノはゲームによりますが、ほとんどが1ケタです。25%ってもう十分高いゾーンですと、宝くじと同じ仲間ですとしてもらう。それかもうカジノも含め全部非課税で、胴元側から取って子どもからは取らないということで統一にする。そういう議論で突き進んで行かないと。

おじゃ馬します!

▲「胴元側から取って子どもからは取らないなど、そういう議論で行かないと」


野元 本当はそうですよね。それを主張していかないといけない。

須田 競馬って、外敵が来た時にうまくアクションを起こせない業界でもある。カジノにしろ、なにかが攻めて来たらどうするっていうシミュレーションをするきっかけとして、カジノ問題を生かすことによって、業界自体がたくましくなってほしい。

野元 カジノと税金の問題が表に出てこないのは、カジノの主務官庁をどこにするかの問題とも絡んでいた面がありますね。かなり長い間、たらい回し的な状況が続いた末、最終的に観光庁に落ち着く方向になりましたが、歴史が浅くて権限も多くない。日本は官が持っている権限が今も大きいですから。もし、カジノが財務省所管という話になっていたら、また違ったんでしょうけど。

今のカジノ議論では現実味がない


赤見 今回のカジノ誘致場所っていうのは、地域から「うちに来てください」って立候補するんですか?

須田 そうでしょう。競輪だってなんだって、戦後の公営競技っていうのは全部そういうものですよ。まあ、競馬は戦前からなので民間由来ですが。戦後の新種公営競技勃興期の感覚で手を上げる自治体はあるでしょうが、近年の公営競技が赤字に苦しんでいることを考えると、滑って終わるリスクも考えないと危険ですよ。まして今は話が大きくなりすぎている。

赤見 しかも誘致したい自治体住民のトーンもって考えると。だって、マカオなんて地域住民全員がカジノのためにがんばっているという感じじゃないですか。お客さんに来てもらうためには地元の人も一緒に努力するぐらいじゃないと、なかなか難しいと思うんです。

目黒 マカオの場合は、ちょっと違うと思いますよ。日本は他に大きな経済基盤があるけれど、マカオはあの小さい行政区の中で職業の選択肢も少ないですから。カジノがあれば、関連した仕事に就く人がほとんどでしょうしね。

須田 国によってさまざま条件は違いますからね。マカオの場合は中国という後背地を抱えていて、広東省辺りから陸路でもアクセス出来て、しかも中国ではカジノどころか一切の賭け事が禁止されてくるという、最高に恵まれた状況にあるわけですよ。

目黒 日本を同一視はできないですね。

須田 これもよくカジノの間違った議論になるけれども、外貨が流入して国富が増す効果も過大視されがちだと思います。例えばシンガポールなんかは、カジノを作って観光客が増えてすごく潤ったみたいに言ってますけど、あれは完全にローカルを食い物にした商売。どれだけの人間が年間パスを持っているかという話ですよ。

野元 例えば香港の競馬は急速に売り上げを伸ばしていて、今では日本の6割ぐらいまで来ています。ですが、香港の人口は700万人に過ぎない。日本の18分の1です。まさか全人口が日本人の10.8倍馬券を買うなんていうことはあり得なくて、実は須田さんがおっしゃった通り、大陸という後背地があるから成立している話です。

 もっと顕著なのがマカオです。13年の売上が大体4兆5000億ぐらいと発表されていますが、実際はその3倍ぐらいと推定されています。なぜそんな差が出るかというと、現地で現金を払わず、コンシェルジュを通してクレジットでやっている人の分が公称の売上の2倍ぐらいあるのではないかと言われています(注:14年は公称の売り上げが前年比2.6%減少。当局の取り締まりの影響との見方が一般的)。

 その意味で言えば、この先、一番効果的なプレゼンテーションは何かと言えば、「本当にカジノは儲かるんですか」という部分をもっとギチギチ、嫌らしく攻めて行くことだと思うんです。考えようによっては、マカオでさえ中国の一部ですから、大陸の客だけなら、資金洗浄のルートになるだけで、中国全体として国富が増えていないことになる。

須田 考えていくと、日本の経済にメリットがあるからカジノを作ると言うのは無理がある。そこまで国富は流入しない。作るんだったら、カジノはカジノで楽しくて良いものだから、一定のコントロール下でレジャーの選択肢として日本に加えましょうという方が筋は通っている。ただ、単にこれはこれで楽しいものだからという議論は、主婦層には通用しない。

目黒 そうですよ。「もしかしたらこれで雇用が増えるのかしら!?」とか、そんなほんのちょっとのプラスでもまだ、心理的なマイナス面を補えないわけであって。そうなって来ると、あまり現実味がないかなという気がするんですよね。

野元 今は推進派がなにを口にしても、全く現実味がないです。それはこの間まで吊るされていたカジノ法案(注:衆院解散でいったん廃案に。1月26日開会の通常国会に議員立法で再提出予定)の中身に具体性が全然ないから。そもそもどこにどういうものが出来るのか、誰もイメージできませんから。

須田 賛成しない人を賛成に回らせるためには、「これだけの経済効果があるんです」「これだけの雇用ができます」という、デカめの嘘をつかなきゃいけない。そのデカめの嘘から逆算してデカいハコを作る。土木マフィアはそれでいいわけですよ。作ることがゴールだから。

赤見 立場によってゴールは違うわけですね。公設ならば、自治体は始まった後のことも考えなくてはいけないですね。

須田 煽る人の様子を見ると、カジノ周りの人たちはタフですよね。競馬界だって例えば特別区競馬組合と東京都競馬が「カジノ法案が通るんだったらうちは複合化しますよ」と、嘘でもいいから言えば、なにもしないで都競馬の株価が上がるじゃないですか。でも、そういうたくましさは日本の公営競技界にはない。

目黒 競馬界はカジノについては傍観、という印象はありますね。

例えば大井競馬場が!


須田 それにしても一連のカジノ騒動で思ったんですが……競馬というのはJRAが20年30年かけてイメージを良くしようとして来て、結果的にある程度成功していると思うんです。それで僕ら競馬は社会に認めてもらえたような気になっているけれども、意外と今でも反ギャンブルの主婦層はナメない方がいいぞという教訓が、今回のカジノ問題から得られるような気がします。

野元 そう思います!

須田 そしておふたりは、平均的な主婦層ではないという自覚を持って生きて行かなきゃいけないということです(笑)。

目黒 だって、カジノ楽しいもんね。

赤見 はい。海外に行った時とかに行くと、すごく楽しいです。

おじゃ馬します!

▲「競馬もカジノも大好き」というおふたり、女性ならではの見解を語る


目黒 でも、そこなんですよね。日本人にとって現状、カジノって非日常だと思うんです。パチンコとか公営競技って、通っている人たちにとってはそれは日常であって。じゃあ日本にカジノがあるから日本で打つかとなるかといったら、私はそうは限らないと思うんです。

野元 年に何回も行くものでもないと思いますよ。あと、日本人の客に関して言えば、いまの良いイメージの「カジノリゾート」に合致する、着飾って社交を楽しむような文化って、ないのではないかという気がします。

目黒 競馬もイギリス流の社交競馬ではなく、日本、香港、シンガポール、韓国は大衆競馬ですしね。

野元 そう。競馬も基本的にはカジュアルな世界です。で、そういうカジュアルなギャンブル需要を最も手軽に満たすのがパチンコです。そこで、カジノの収益力を考えた場合、方向は2つ。第1にシティグループのリポートのように、国内でパチンコを食うという戦略ですが、国内に多くても数か所しかつくられないカジノに、パチンコの利用者が大挙、足を向けるという話が現実的か? これは相当に疑問です。

 すると残るは第2の道、つまり中国の富裕層の需要取り込みしかない。ですが、須田さんもおっしゃった通り、今の日中関係を考えたら、これも現実味があるのか? 前から不思議だったのですが、カジノ推進派の人って、今の嫌中嫌韓ムードにどちらかと言うと掉さすようなタイプの人の方が明らかに多いと思います。ケンカしながらカネを引っ張れると本気で思っているのか? その辺の矛盾をどう考えてるのでしょう。まあ、今まではそれ(嫌中嫌韓の方)で政治的に生き残ってきたのでしょうけど…。

須田 プライオリティは小遣いくれるということで、イデオロギーは2番目なんでしょうかね。まあ、僕らカジノファンとして見てても、今のカジノ論議はちょっと地に足が着いてなさすぎる。本当に日本の行方を考えているわけじゃなくて、自分が良ければあとはどうでもいいというプレーヤーが主導権を取っている印象がありますね。

野元 90年代前半ぐらいに、競馬に対するイメージが一新したかと思わせた時期があったでしょう。もしかしたら競馬の経営形態や法的な位置づけが変わって行くことにつながるのではないかと、期待した時期もあったのです。でも、現実にはそうならなくて。しかもパチンコに関しては、そのまま放ったらかしになった。

 本当にカジノをやるのであれば、まず今の日本のギャンブル法制全体との矛盾を解消すべきだと思います。まずもって刑法(賭博罪、富くじ罪)があのままでいいのかという、もっと根本的な話をしなければならないって思うんです。今の刑法は明治の富国強兵とか、「民は余計なことをせず働いていろ」といった権威主義的な思想を引きずった法体系ですからね。そういう考え方を、いつまでも一国の基本法レベルで引っ張っていていいのかという。

 そういう問題意識と絡めて話をするのであれば、ちょっとは応援しようかという気にもなりますが、あまりにも政治的な負担がデカすぎて誰も口にしなかった。だから、どうしてもお手並み拝見という感じで見ちゃいますね。

須田 カジノも一気呵成に行ければ違ったのかもしれないけど、壁が突破できないうちにどんどん「分け前寄越せ」って群がって来て、収集つかなくなっていくという印象ではありますね。

赤見 逆に、小さくても成功しそうなカジノのあり方というのは例えばどんなものでしょう?

須田 我々と縁のあるところで言えば、公営競技場と複合施設化して、アメリカみたいにやったらいいんじゃないのと思いますよ。なるべく身の丈の小さいところでやって、それで本当にカジノが儲かるものだとしたら、競技場全体の収支も好転するわけですし、もっとデカくしてもいい。最初は需要過多、供給過少にしたほうが、飢餓感からブーム色も出るでしょう。

野元 アメリカの場合、カジノロビーと競馬ロビーは激しく戦ってきました。発売面などで競馬業界が規制緩和を図ろうとすると、カジノロビーが必ず妨害していました。今も競馬ロビーは押され気味です。アメリカの競馬は売上や入場者を含めて、全般的に衰退傾向にありますが、建て直すための効果的な手が打てていないのも、ロビイスト同士の戦いで負けているという要因があるかと思っています。

須田 ただ、両陣営の戦いはあるんだけれども、最終的に1つの敷地の中に両方で住まうという形態が増えたために、カジノはカジノで稼いでいるんだけど、競馬がちゃんとそのおこぼれをもらえるという複合化がなされているわけなんですよ。僕はリアリストなので、金の出所は問いません。アメリカは競馬場やドッグレース場の敷地余り、駐車場余りとカジノ導入がうまくマッチしたところが結構あります。カジノ側ばかり栄えていると、競馬側として寂しい部分はありますが。

目黒 もともと土地があるとか、警備や地元調整の面でも公営競技場と合う面はありそうですね。

須田 カジノのためにも競馬のためにも、まずは小さいカジノを公営競技場と複合化して作るというのは私のおすすめです。海外に前例もありますし。試しに大井競馬場と周辺の敷地までカジノと複合化したらいいんじゃないかなって思うんですけどね。羽田空港も近いし。

赤見 大井競馬と併設ってなると、わたしたちにとってはグッと身近になって、それは行きたくなります! では、そろそろまとめに入りますと、まず、今カジノができることによって競馬に特段のリスクがあるとかではない。ただ、できたらどうなるだろうというシミュレーションは考え置いた方がいいし、備えも必要だということですね。みなさん、興味深い議論をありがとうございました。(了)

東奈緒美 1983年1月2日生まれ、三重県出身。タレントとして関西圏を中心にテレビやCMで活躍中。グリーンチャンネル「トレセンリポート」のレギュラーリポーターを務めたことで、競馬に興味を抱き、また多くの競馬関係者との交流を深めている。

赤見千尋 1978年2月2日生まれ、群馬県出身。98年10月に公営高崎競馬の騎手としてデビュー。以来、高崎競馬廃止の05年1月まで騎乗を続けた。通算成績は2033戦91勝。引退後は、グリーンチャンネル「トレセンTIME」の美浦リポーターを担当したほか、KBS京都「競馬展望プラス」MC、秋田書店「プレイコミック」で連載した「優駿の門・ASUMI」の原作を手掛けるなど幅広く活躍。

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