今週木曜日、1月22日付の『スポーツ報知』の野球面をひらいて「あれ?」と思った。
9段ほどをとる大きな馬のシルエットに記事が乗っかるデザインになっている。見出しは、「L育成1位戸川の野望 実家生産馬でダービー制覇」。西武ライオンズの育成ドラフト1位で、実家が日高でサラブレッドを生産している戸川牧場という戸川大輔外野手(18)についての記事だ。
戸川牧場は、2010年のアンタレスステークス、11年の平安ステークスを制したダイシンオレンジなどを送り出している。
「実家の馬にダービーを勝ってほしいんです」と言う戸川選手は、幼少期、騎手を志したが、大柄すぎて小学校2年で断念。体が大きくなりすぎて騎手への道を諦めた人は何人も知っているが、普通は競馬学校受験を真剣に考え出す中学生ぐらいになって決断する。それを小2で決めたというのだから、よほど大きな子供だったのだろう。プロフィールによると、身長188センチ、体重86キロ。体重に至っては、標準的な騎手の倍近くある。おそらく彼は、「騎手を夢見た日本一大きな男」だ。
戸川選手は「一流選手になれたら、ディープインパクトを種付けしてダービーを勝ちたい」とも話している。横浜の三浦大輔投手は「オーナープレーヤー」だが、そこにもうひとつ加えた「オーナーブリーダープレーヤー」が誕生するかもしれない。
生産者といえば、今週の『週刊ギャロップ』の「ひだか牧場リレー日記」で、荒井ファーム代表の荒井孝則さんが、今年も多くの新種牡馬がスタッドインしたとして、スマイルジャックの名を挙げている。ニューフェイスも候補に加えて配合を検討するのが生産者にとって楽しい時間だと書かれているが、私のようなファンにとっては、荒井さんのような人たちを悩ませ、楽しませる馬のなかにスマイルもいるのかと思うだけで嬉しい。
同じギャロップの「関東リーディングトレーナー」のページをひらくと、「木村哲調教師が首位快走」とある。6勝で、2位タイの3勝の調教師たちのダブルスコアだ。東西通じての順位では池江泰寿調教師も6勝で、2着0回3着2回まで並んでいるのだが、4着の数の差でトップを池江師に譲っている。
今年開業5年目を迎えた木村哲也調教師に、2年前に一度インタビューした。厩舎関係者に血縁はなく、高校生のときオグリキャップの走りに惹かれて競馬ファンになったという。神奈川大学工学部建築学科を卒業後、牧場勤務を経て競馬サークルに入った。
話を聞いて驚いたのは、木村師のルーティンである。日曜日の競馬が終わったら飛行機で千歳に飛び、翌日レンタカーで馬産地を回り、夜に美浦に戻る……ということを、毎週つづけていたのだ。営業のためのみならず、馬の見方や扱い方を教えてもらうためだという。2年経った今もつづけているのだろうか。
開業した2011年は、3月に免許を取得し6月に開業という慌ただしさもあって6勝に終わったが、翌12年9勝、話を聞いた13年16勝、14年14勝を挙げ、今年は3週を終えた時点でもう6勝しているのだからすごい。
インタビューの最後に「いつかリーディングを狙えるようになりたい。ダービーを勝って当たり前、種馬をつくって当たり前と思われる調教師を目指したい」という言葉を聞き、
――この人なら、それを実現させるかもな。
と思った私は、今の木村師の快走ぶりに驚いてはいない。
今度は、管理馬のものすごい走りで驚かせてほしい。それが重賞初勝利だったりすると、インパクトがあるし、夢もふくらみ、話のタネにもなる。
関東の調教師や騎手に共通する傾向として、トータルで数多く勝っても、GI勝ちは関西で同じぐらい活躍しているイメージの調教師や騎手より少なくなる。
競馬学校で同期だった、関東の田中勝春騎手と、関西の角田晃一調教師、佐藤哲三元騎手などはその典型である。
よし、決めた。私は、自分の目標を口に出すと指の隙間から夢がこぼれ落ちるように叶わなくなる傾向があるので、他人を主体とすることを目標として宣言したい。
今年の目標は、まずスマイルがたくさんのお嫁さんに恵まれること。次に、木村師の重賞初勝利、願わくばGI初勝利を目撃して祝福すること。
また、キズナに凱旋門賞を勝ってもらいたいし、武豊騎手にリーディングを獲ってもらいたい。
来週、骨折明けとなる京都記念に向けたキズナの2週前追い切りに武騎手が跨ると報じられている。
武騎手と、年末年始のアメリカ西海岸サンタアニタパーク競馬場遠征のスケジュールが重なることの多かったのが、今週ラスト騎乗を迎える中舘英二騎手だ。3月の厩舎開業に向けた準備のため、通常より1カ月早く鞭を置き、引退式を行うことになったという。
今週は、ゴールドシップ、コパノリッキーといったGIホースの始動戦も行われる。
春の足音が、いつの間にか聴こえるようになってきた。