2014年欧州2歳馬のワールドベストレースホースランキング
ベラードに与えられた119は37年の歴史を誇るクラシフィケーション史上、2歳トップとして最も低い数値
20日にIFHAから発表になったワールドベストレースホースランキングから、今回は、かつてのヨーロピアンクラシフィケーション2歳部門に相当する、ヨーロッパ調教の2歳馬ランキングを検証したい。
首位に立ったのは、レイティング119を獲得した英国調教馬ベラード(父ロペドヴェガ)だった。
この世代が初年度産駒で、ベラードを含めて4頭もの重賞勝ち馬を輩出してフレッシュマンサイヤーチャンピオンに輝いたのが、ベラードの父ロペドヴェガである。現役時代は仏国のアンドレ・ファーブルが管理し、G1仏二千ギニー(芝1600m)、G1仏ダービー(芝2100m)の2冠を達成している。ベラードの母ダナスカヤは現役時代、愛国のジム・ボルジャーが管理し、2歳時にG2ロウザーS(芝6F)2着、G1チーヴァリーパークS(芝6F)3着、G1モイグレアスタッドS(芝7F)4着などの成績を残し、この年のクラシフィケーションでは112という、愛国調教の2歳牝馬としては最も高いレイティングを獲得している。
ベラード自身は愛国産馬だが、父が仏国のクラシックホースということもあってか、仏国のアルカナ8月1歳市場に上場され、10万ユーロ(当時のレートで約1300万円)という、活躍した母を持ち兄姉に重賞入着馬が2頭いる馬としてはいささか控えめなマーケットプライスで、代理人のテッド・ヴァウト氏を通じてサウジの王族ファイサル殿下に購買されている。実は私自身、セールの際に厩舎地区で実馬を見ているのだが、『スピードはありそうだが、巾が薄くフレームも軽い』とのメモが残っている。決して見映えの良いタイプではなく、父の評価も定まっていなかったことを鑑みると、まずは妥当な価格だったと言えそうだ。
ニューマーケットのロジャー・ヴァリアン厩舎に入ったベラードは、6月にヤーマスのメイドン(芝6F3y)でデビューし、中団から追い込む競馬で緒戦勝ち。続くニューマーケットのG2ジュライS(芝6F)は4着に終わったが、次走ニューバリーのLRワシントンシンガーS(芝7F)を3番手から差す競馬で快勝して2勝目をマーク。続くドンカスターのG2シャンパンS(芝7F)で4着と敗れた後、英国における2歳王者決定戦的位置づけにあるニューマーケットのG1デューハーストS(芝7F)に挑んだ。
6頭の馬群が外埒沿いを進んだ中、埒沿い4〜5番手を追走したベラードは、残り500mを切ったあたりから追い出しにかかった。しばらく、前の馬が壁になって進路がない状態に置かれたが、残り1F付近でようやく隙間に馬体をねじ込むと、一気に抜けて快勝。重賞初制覇をG1で手にすることになった。
血統背景と、脚を溜めることが出来るレース振りから、少なくともあと1Fの距離延長に問題はなさそうだ。勝負根性もありそうな競馬をしていることからも、二千ギニーの有力候補と言えそうだが、ブックメーカーの前売りではオッズ13〜15倍の6番人気前後に甘んじているのは、母が早熟タイプであったがゆえ、成長力の欠如を懸念するファンが多いのかもしれない。
また、G1デューハーストSの時は馬場がSoftで、LRワシントンシンガーSの際の馬場はGood to Soft。一方、敗れたレースでは、G2シャンパンSがGoodで、G2ジュライSがGood to Firmだったから、現状では軟らかめの馬場を好む馬であることは間違いなさそうである、
なおベラードは2歳シーズン終了後、権利の半ば以上をモハメド殿下のゴドルフィンが取得。ヴァリアン厩舎には留まるものの、ゴドルフィンのブルーの服色を背に今季を戦うことになっている。
さて、ベラードに与えられたレイティングの119とは、実は37年の歴史を誇るクラシフィケーション史上で、2011年に横並びで首位だったキャメロットとダビルシムと並ぶ、2歳のトップとしては最も低い数値である。
また、レイティング110以上を獲得した馬の数50頭というのは、過去15年で4番目という少なさで、2014年の2歳世代は質量ともにやや低調な世代と分析されている。
ただし、だからと言って2015年の3歳世代に期待が持てないわけでは、決してない。冬場に著しい進境を見せ、大きく台頭してくる複数の若駒の登場を待ちたいと思う。
2歳牝馬の首位は、ファウンド(父ガリレオ)とティギーウィギー(父コーディアック)の2頭が、レイティング117で横並びとなった。
シーズン緒戦から7連勝で制したG1メイトロンS(芝8F)、牡馬を撃破したG1ロッキンジS(芝8F)と、2つのマイルG1を制したレッドイヴィーの4番仔で、G3パークS(芝7F)勝ち馬でG1入着実績のあるマジカルドリームの全妹という良血馬が、エイダン・オブライエン厩舎のファウンドだ。
8月にカラのメイドン(芝8F)を後方から追い込む競馬で制して緒戦勝ちをした後、次走はいきなりG1モイグレアスタッドS(芝7F)に挑んだあたり、陣営の大きな期待が現れている。ここもダッシュがつかずに後方からの競馬になり、残り2Fの手前から鞍上J・オブライエンが追い出しにかかると、外に大きく逃げる場面が2度あり、よく追いこんだものの3着に敗退している。次走は仏国に遠征し、R・ムーアが騎乗してG1マルセルブーサック賞(芝1600m)に挑み、ここでは前半から先行馬を目の前に見るポジションを確保。その後、やや番手を下げて迎えたフォルスストレートで挟まれて頭を上げかける局面があったが、直線では狭い隙間をこじ開けて抜け出し快勝。ブックメーカー各社は同馬を、千ギニーでもオークスでも前売り1番人気に支持することになった。
ファウンドと横並びで首位のティギーウィギーは、昨年の英愛2歳リーディングサイヤー・コーディアックの産駒である。コーディアック産駒の5世代目にしてのブレークについては、本年1月7日付けの当コラムで記しているので、御参照いただきたい。
2歳8月にドンカスタープレミアセールにて4万1千ポンド(約630万円)で購買され、リチャード・ハノン厩舎に入厩。デビューはなんと3月29日で、ケンプトンのメイドン(AW5F)で2着以下に7馬身差をつけての逃げ切りで緒戦勝ち。これを皮切りに9月末までに8戦を消化し、6勝をマーク。ことに終盤は、G2ロウザーS(芝6F)、G1チーヴァリーパークS(芝6F)を連勝し、レイシングポストのレイティングでは単独で2歳牝馬の首位に立っている。
敗れた2戦も2着に入っており、連対率は100%を誇る。緒戦同様に、終盤の重賞2連勝もいずれも逃げ切り勝ちで、とにかく圧倒的なスピードにモノを言わせて実績を積み重ねたのがティギーウィギーであった。
自身の実績もさることながら、母が5F戦の勝ち馬ならば、1頭だけいる兄も6F戦の勝ち馬で、母の3つ年上の兄にG3ノーフォークS(芝5F)勝ち馬マスタプラスタがいるという、血統背景も徹頭徹尾のスプリンター系である。そういう馬であるゆえ、今年当面の目標も、ロイヤルアスコット開催8個目のG1として新設される3歳限定G1コモンウェルスC(芝6F、6月19日)になる模様だ。
2月に入るとそろそろ、欧州から平地の大物たちの動静が聞こえてくる時季を迎える。クラシックを目指す有望株に関するニュースに、皆様もぜひ耳を傾けていただきたいと思う。