今、札幌に帰省中なのだが、母の主治医や担当ソーシャルワーカーと面談したり、検査のための一時的な転院の手続きをしたり、洗濯機が壊れたので買いに行ったりと時間をとられ、スマイルジャックがお披露目された、アロースタッドの種牡馬展示会に行くことができなかった。スマイルはしっかりおつとめを果たしているのだろうか――。
週末、千歳から直接関西に飛び、2月15日の京都記念を観戦する。
キズナ対ハープスター。わくわくする初対決である。
キズナは昨年の天皇賞・春のレース中に発症したと思われる骨折のため休養し、約9カ月ぶりの実戦。ハープスターは、故障して下がってきた馬のあおりを受けながら5着まで追い上げたジャパンカップ以来約2ヶ月半ぶりのレースとなる。
キズナは一昨年の凱旋門賞で4着、ハープは昨年の同レースで6着。キズナは今秋の凱旋門賞を最大目標に据えており、ハープはドバイシーマクラシックに向かう予定だ。
適鞍を求めて海を渡る日本馬の牡牝の代表格が激突するのだから、アドレナリンを出すなというほうが無理である。
どちらも、レース序盤は番手にこだらわず、自分のリズムを優先して走る。そして直線、豪快な末脚で前を呑み込み、結果を出してきた。
京都記念では、道中、どちらが前につけるのだろう。先に動き出すのはどちらになるのか。2頭が馬体を併せて伸びてくるのか、それともどちらかがあえて仕掛けのタイミングを遅らせ、一気にかわしにかかる手に出るのか――などなど、興味は尽きない。
その前日、2月14日から、私が作詞を担当した音楽CD「キズナ きらめく風になれ」が発売される。作曲は田村武也さん、歌うのは関根奈緒さんである。
A面の「キズナ きらめく風になれ」はテンポのいいポップスで、歌詞は「応援、仮託」をコンセプトにして書いた。B面の「よみがえる想い」はバラードで、こちらの歌詞のコンセプトは「讃歌、同化」である。
実は、叩き台にするつもりで書いた歌詞を、プロデューサーをつとめるサンライズプロの横田和光さんに提出したのとほぼ同時に、田村さんから数曲のメロディーが送られてきた。私が出した叩き台は、寺山修司の「さらば ハイセイコー」を意識し、その現代版でありキズナ版といったテイストのものだった。ひとつひとつの言葉に想いを寄せて詠み上げたのはいいが、しっとりさせようとして暗くなってしまったところが随所にあり、メロディーに乗せるものというより、活字媒体向きのものになってしまった。
私はすぐさまその叩き台を引っ込め、メロディーに歌詞を乗せていく手法をとることにした。
問題は、どの曲を選ぶかだ。田村さんいわく、スキマスイッチ風あり、MISIA風あり、私の知らないアーティスト風ありで、どれもいい。
それぞれのメロディーに関根さんが「ラララ」と歌声を乗せたものをスタジオで聴き、横田プロデューサーをはじめとするスタッフと、どれにするか話し合った。その話し合いの空気でひとつだけ確かだったのは、みな、自分では決めたがらない、ということだった。
「いやー、ぼくはわからないんで、島田さん、決めてください」
「そうですそうです、詞ィを書くんは島田さんなんやから」
このままだと押し切られそうだったので、曲をつくった田村さんに、
「一番のお気に入りはどれですか?」
と訊くと、
「うーん、島田さんが気に入ったのにしてください」
と逃げられ、歌う張本人である関根さんを見ると、素早く「島田さんがどうぞ」という意味で手のひらを差し出された。
そんなわけで、結局、私がいいと感じた2曲を選び、歌詞を乗せることにした。
ひとつは、メロディーだけをクルマのなかで聴いていたとき、一番気持ちが弾んだ「サビ始まり」のアップテンポのもの。もうひとつは、スタジオでキズナのダービーの映像を流しながら聴いて、一番ジーンと来たものにした。
パドックでうるさくても、ゲート入りが近づくにつれて落ちついてくるあの馬ならではの特徴や、父ディープインパクトが果たせなかった夢を追いかけていく姿などを、短い言葉のなかで描写しながら、想いをこめた。
キズナとは、デビュー前から縁があった。本物のキズナの存在を知らなかったとき、私は当サイトに競馬小説「絆」を連載し、馬の主役を「キズナ」とした。父シルバーチャーム、母の父ホワイトストーンと、本物とは血統がまるで違うが、2011年12月に担当編集者に送った企画書に、「オーナーのイメージは前田幸治氏」と書き、ダービーを勝つところで物語を終えた。物語のキズナが勝ったダービーは2014年のダービーという設定で、2012年の暮れに最終回を迎えた。その半年後に本物のキズナがダービーを勝ち、秋、ニエル賞を勝ったあと、複数の海外オーナーからトレードのオファーがあった。物語のキズナも、皐月賞を勝ったあと、アラブの石油王から購入の申し出を受けていたが、オーナーが断っている。
物語のキズナを管理する大迫正和調教師は大竹正博調教師をイメージしており、何度も原稿に「大竹」と書いて送ってしまい、担当編集者に迷惑をかけた。それもあって、本物の大竹師が管理するルージュバックの活躍はとても嬉しい。
競馬小説といえば、2月16日、月曜日から当サイトで「顔面調教師」という読み物の連載が始まる。ドタバタ人情もの、という感じのものだ。読んでタメになるかどうかはわからないが、楽しいものにしたいと思っている。
京都記念の翌週、八戸にえんぶりを見に行く。えんぶりとは国の重要無形民俗文化財に指定されている、八戸地方を代表する民俗芸能である。青森冬の三大祭りのひとつで、馬の頭をかたどった烏帽子をかぶった人々が、豊作祈願の舞いを踊りながら街を練り歩く。
最年少ダービージョッキーの前田長吉も、馬上でえんぶりの笛を吹き、風呂のなかでも練習していたという。
それを、長吉の兄の孫の前田貞直さんと一緒に見る。
貞直さんにも、地元紙「デーリー東北」の知人にも「寒いですよー」とさんざん脅かされたので、上も下も重ね着していかなければ。ともかく、楽しみである。