もっと強くなる可能性もある
4歳牝馬
ヌーヴォレコルト(父ハーツクライ)が、先に抜け出した5歳牡馬
ロゴタイプ(父ローエングリン)のインをこじ開けて差し切った。牝馬の中山記念制覇は、1991年のユキノサンライズ(父ホリスキー)以来、24年ぶりだった。つい1ヶ月ばかり前の「きさらぎ賞」も、牝馬ルージュバック(父マンハッタンカフェ)が51年ぶりに牡馬相手に完勝している。
相変わらず強い牝馬の時代がつづいている。この流れだと、今週の「弥生賞」のレース結果をチェックしたあと、「皐月賞」に登録する牝馬がいるかもしれない。
ヌーヴォレコルトの倒したロゴタイプも、5着にしりぞけた同じ4歳の
イスラボニータも皐月賞馬である。皐月賞には昨2014年、バウンスシャッセが牝馬として23年ぶりに挑戦しているが(11着)、牝馬の勝ち馬は、遠い時代の1947年トキツカゼ(父プリメロ)、1948年ヒデヒカリ(父ダイオライト)の2頭だけである。これは競走馬資源がまだ1000頭に達するか達しないかの時代であり、牝馬が主要レースを勝つなど当たり前の時代だった。日本のサラブレッドの生産頭数は1万頭を超えた最盛期を経て、現在は4分の3以下の6000頭台にまで減っている。競走馬資源が大幅に減少しているという観点からすると、牝馬のビッグレース制覇は競走馬の総数がいまよりずっと多かった「1980年代-2000年代」に比べ、現在の方がはるかに達成されやすい状況にある、と考えることもできる。
たとえば、日本ダービーになると、「この世代約7000頭の頂点に立つのは……」などと形容されるが、あれは大げさ。男馬は最初からその半分である。さらには、最初からダートの短距離戦にマトを絞った配合馬を生産するのも、実際の競走体系に即した生産方法であるから、生まれた時すでに、皐月賞や日本ダービーを念頭に置く馬は、現実には2000頭くらいである。
それに、男馬勝りの能力を秘めた牝馬の存在はいつの時代でも少しも珍しいことではない。これからも牝馬のビッグレース制覇、男馬相手のグレードレース制覇は再三生じて不思議ない。ヌーヴォレコルトの快走をみていて改めてそう感じた。
しかし、それにしてもヌーヴォレコルトは勝負強い。ハデな勝ち方をする馬ではなく、オークスをクビ差で制したあと、惜敗した秋華賞も、エリザベス女王杯も「クビ差」だけ。今回の勝利もクビ差。ここまで通算10戦【5-3-1-1】。2歳秋の新馬1600mを4着(0秒3差)に負けはしたが、以降はライバルのハープスターなどと対戦しすべて接戦の3着以内である。
今回、鞍上の岩田康誠騎手は4コーナーと最後の直線で十分な間隔がないのに他馬を抜こうとした騎乗に対し、2つの過怠金を課せられているが、ヌーヴォレコルトが危険なレースを展開したのではなく、ヌーヴォレコルトにとっては、狭いラチと500キロ近いロゴタイプとのあいだに突っ込む指示を受け、それに応えたのである。その勝負根性は半端ではない。最後の1ハロン、ロゴタイプの脚さばきが鈍っていたわけではなかった。
ヌーヴォレコルトは、このあとは「ヴィクトリアマイル」に向かい、そのあと「宝塚記念」に挑戦のプランがある。配合形も牝系も異なるが、ジャスタウェイと同じハーツクライ産駒。まだ4歳の春であり、もっと強くなる可能性はある。
2着に負けたロゴタイプは、必勝パターンに持ち込みながら、インから差されたあたりにちょっと物足りない一面は残ったが、もう完全復活である。これで中山の芝【3-2-1-0】であり、父ローエングリンと合わせた中山記念【2-1-2-0】となった。
中山の2000mを2回も1分58秒0で乗り切っているから、このコースに対する適性抜群を改めて示したが、といって、ほかのコースで能力減があるわけではない。ちょっと連続出走のローテーションになったからひと息入れる可能性が高いが、父ローエングリン(4歳時と、8歳時に中山記念を後藤浩輝騎手で快勝)に似たタイプを示しているから、おそらくタフなところも同じだろう。流れに乗って先行できるのは、多くのレースで大きな強みになる。
3着に押し上げた
ステファノス(父ディープインパクト)は、皐月賞も、秋のセントライト記念もイスラボニータと小差。イスラボニータが高く評価されたここは、有力馬が少なかったから必然の高い支持を受けていたが、それに応えている。明らかに全体にパワーアップしていた。
ペースアップに対応して早めにスパートする自在性はもう一歩だが、一段と追ってシャープに、大跳びになった印象がある。母ココシュニックは、ダートの短距離を中心に大活躍したゴールドティアラとクロフネの組み合わせであり、事実ダートで全3勝だったが、その全弟ゴールデンハインド(父クロフネ)が芝3000mの万葉Sを勝つなど、不思議な広がりを示すファミリーの出身。
ディープインパクト産駒のステファノスは最初からダート戦には出走意思がなく、芝のマイル戦以上に出走し、富士Sを1分33秒2で快勝している。今回のレースをみると、東京や京都以外では2000m級のほうがよりいいだろう。このあとが楽しみである。
人気の中心だったイスラボニータ(父フジキセキ)は、ロゴタイプを射程に入れながら好位追走の正攻法だったが、直線スパートできず5着。坂上でステファノス、さらには
マイネルフロスト(父ブラックタイド)に差されたのは不満だった。といって、完敗には違いないが差は0秒4。「馬場が悪かったぶん、いつもの反応がなかった(蛯名正義騎手)」こともある。また、ここは春のビッグレースに向けての始動戦。たしかに仕上がってはいたものの、見る人を感嘆させるような柔らかく、かつ鋭い追い切りではなかった。完調一歩手前だったろう。身体全体は、太め残りというより、スケールアップしているようにみえた。
おそらくこのあとは安田記念に向けての路線になると思われる。3歳時は可能性に挑戦がトップホースのテーマであり、ジャパンC挑戦も意義のあることだったが、これからは1600m-2000mに標準を合わせることになるだろう。
4着マイネルフロストは、終始有力どころと同じ位置を進み、最後までしぶとく脚を使って勝ち馬から0秒3差の4着。ダービー3着の地力を発揮したが、課題はなにかひとつ強力な持ち味を身につけることか。4コーナーでヌーヴォレコルトに寄られる不利があり、たしかにそれも敗因のひとつだろうが、馬場を気にしたか、自身がスパート態勢に入るギアチェンジがなかった。