この春のクラシック戦線では、「無敗馬」が注目を集めている。
牡馬では3戦3勝で弥生賞を勝ったサトノクラウン(父マルジュ、美浦・堀宣行厩舎)が大将格だ。今週若葉ステークスに出走するアダムスブリッジ(父ゼンノロブロイ、栗東・石坂正厩舎)と、スプリングステークスに出るリアルスティール(父ディープインパクト、栗東・矢作芳人厩舎)は、この稿を書いている時点で2戦2勝。同じく2戦2勝で新潟2歳ステークスを勝ったミュゼスルタンもスプリングステークスに出るので、リアルかミュゼのどちらか(あるいは両方)は、今週末、無敗ではなくなってしまうわけだが。
牝馬では、きさらぎ賞で牡馬たちを蹴散らし、戦績を3戦3勝としたルージュバック(父マンハッタンカフェ、美浦・大竹正博厩舎)の強さがケタ違いだ。フィリーズレビューを勝ったクイーンズリング(父マンハッタンカフェ、栗東・吉村圭司厩舎)、クイーンカップを制したキャットコイン(父ステイゴールド、美浦・二ノ宮敬宇厩舎)も同じく3戦3勝と土つかずのまま桜花賞を迎える。
これほど「無敗馬」が楽しませてくれるクラシックは珍しいのではないか。と思い、「無敗で桜花賞を勝った馬」と、「無敗で皐月賞を勝った馬」はどちらが多いのか、調べてみた。
すると、「こりゃ面白い」というデータが出た。
昨年まで多く出現しているのは、「無敗の皐月賞馬」のほうである。2005年のディープインパクトまで16頭も誕生している。
それに対して、「無敗の桜花賞馬」は6頭しか誕生していない。これまでのところ、04年のダンスインザムードが最後になっている。
やはり、この時期の牝馬は心身ともにデリケートなので、どんなに強くてもコンスタントに力を発揮するのが難しく、それが成績のムラにつながってしまうのか。
ついで、というわけではないが、その先も調べてみた。
「無敗の桜花賞馬」より「無敗の皐月賞馬」のほうが多いなら、「無敗のオークス馬」と「無敗のダービー馬」はどうか。
一番近い過去に「無敗のオークス馬」となったのは、06年のカワカミプリンセス。
1943年のクリフジ、46年のミツマサ、57年のミスオンワードに次ぐ、実に49年ぶり、史上4頭目の快挙達成であった。
クリフジ、ミツマサ、ミスオンワードは、それぞれデビューから5戦目、4戦目、8戦目がオークスだった。カワカミは4戦目。
04年に「無敗の桜花賞馬」となったダンスインザムードはオークスで4着、その他、比較的近い過去に「無敗の桜花賞馬」となった90年のアグネスフローラ、91年のシスタートウショウといった名牝でさえ、オークスでは2着に終わっている。
では、「無敗のダービー馬」はどうか。
こちらは、05年のディープインパクトまで、10頭もいた。ディープの前に達成したのは、34年フレーモア、35年ガヴァナー、43年クリフジ、51年トキノミノル、60年コダマ、84年シンボリルドルフ、91年トウカイテイオー、92年ミホノブルボン、96年フサイチコンコルドである。
ちなみに、「無敗の二冠馬」は、51年トキノミノル、60年コダマ、84年シンボリルドルフ、91年トウカイテイオー、92年ミホノブルボン、そしてディープの6頭。
「無敗の牝馬クラシック二冠馬」は、57年のミスオンワードただ1頭。カワカミプリンセスは秋華賞も無敗で勝っているので、ミスオンワードの記録から「クラシック」をとった、「無敗の牝馬二冠馬」ということになる。
無敗馬。一度も負けたことのない馬。先頭でしかゴールを駆け抜けたことのない馬。英語では「Undefeated(アンディフィーテッド)horse」。
どれも物語のタイトルになりそうだ。
この春、若駒たちが演じる物語から、目が離せない。