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無敗の牝馬と牡馬、その違い

  • 2015年03月21日(土) 12時00分


 この春のクラシック戦線では、「無敗馬」が注目を集めている。

 牡馬では3戦3勝で弥生賞を勝ったサトノクラウン(父マルジュ、美浦・堀宣行厩舎)が大将格だ。今週若葉ステークスに出走するアダムスブリッジ(父ゼンノロブロイ、栗東・石坂正厩舎)と、スプリングステークスに出るリアルスティール(父ディープインパクト、栗東・矢作芳人厩舎)は、この稿を書いている時点で2戦2勝。同じく2戦2勝で新潟2歳ステークスを勝ったミュゼスルタンもスプリングステークスに出るので、リアルかミュゼのどちらか(あるいは両方)は、今週末、無敗ではなくなってしまうわけだが。

 牝馬では、きさらぎ賞で牡馬たちを蹴散らし、戦績を3戦3勝としたルージュバック(父マンハッタンカフェ、美浦・大竹正博厩舎)の強さがケタ違いだ。フィリーズレビューを勝ったクイーンズリング(父マンハッタンカフェ、栗東・吉村圭司厩舎)、クイーンカップを制したキャットコイン(父ステイゴールド、美浦・二ノ宮敬宇厩舎)も同じく3戦3勝と土つかずのまま桜花賞を迎える。

 これほど「無敗馬」が楽しませてくれるクラシックは珍しいのではないか。と思い、「無敗で桜花賞を勝った馬」と、「無敗で皐月賞を勝った馬」はどちらが多いのか、調べてみた。

 すると、「こりゃ面白い」というデータが出た。

 昨年まで多く出現しているのは、「無敗の皐月賞馬」のほうである。2005年のディープインパクトまで16頭も誕生している。

 それに対して、「無敗の桜花賞馬」は6頭しか誕生していない。これまでのところ、04年のダンスインザムードが最後になっている。

 やはり、この時期の牝馬は心身ともにデリケートなので、どんなに強くてもコンスタントに力を発揮するのが難しく、それが成績のムラにつながってしまうのか。

 ついで、というわけではないが、その先も調べてみた。

「無敗の桜花賞馬」より「無敗の皐月賞馬」のほうが多いなら、「無敗のオークス馬」と「無敗のダービー馬」はどうか。

 一番近い過去に「無敗のオークス馬」となったのは、06年のカワカミプリンセス。

 1943年のクリフジ、46年のミツマサ、57年のミスオンワードに次ぐ、実に49年ぶり、史上4頭目の快挙達成であった。

 クリフジ、ミツマサ、ミスオンワードは、それぞれデビューから5戦目、4戦目、8戦目がオークスだった。カワカミは4戦目。

 04年に「無敗の桜花賞馬」となったダンスインザムードはオークスで4着、その他、比較的近い過去に「無敗の桜花賞馬」となった90年のアグネスフローラ、91年のシスタートウショウといった名牝でさえ、オークスでは2着に終わっている。

 では、「無敗のダービー馬」はどうか。

 こちらは、05年のディープインパクトまで、10頭もいた。ディープの前に達成したのは、34年フレーモア、35年ガヴァナー、43年クリフジ、51年トキノミノル、60年コダマ、84年シンボリルドルフ、91年トウカイテイオー、92年ミホノブルボン、96年フサイチコンコルドである。

 ちなみに、「無敗の二冠馬」は、51年トキノミノル、60年コダマ、84年シンボリルドルフ、91年トウカイテイオー、92年ミホノブルボン、そしてディープの6頭。

「無敗の牝馬クラシック二冠馬」は、57年のミスオンワードただ1頭。カワカミプリンセスは秋華賞も無敗で勝っているので、ミスオンワードの記録から「クラシック」をとった、「無敗の牝馬二冠馬」ということになる。

 無敗馬。一度も負けたことのない馬。先頭でしかゴールを駆け抜けたことのない馬。英語では「Undefeated(アンディフィーテッド)horse」。

 どれも物語のタイトルになりそうだ。

 この春、若駒たちが演じる物語から、目が離せない。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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