レッツゴードンキ 現代競馬「勝利の方程式」に反旗/トレセン発秘話
◆「あの馬に勝たせてはダメだろう」と某調教助手が声高に叫んだあの馬とは…
「トレセン発(秘)話」を担当する一人、高岡功記者の別称は「栗東の坂路野郎」。ふざけているようにも見えるが、自身には強烈な自負がある。坂路中心にトレセンを駆けずり回ることで、馬の息遣いを間近で感じ取り、厩舎人のナマの感触を漏らすことなく読者に伝える…そう、“ライブ感”を何より大事にしているのだ。そんな男が第76回オークス(24日=東京芝2400メートル)で狙うのは、“トレセン仕込み”のあの馬をおいて他にない。
「あの馬に勝たせてはダメだろう」
栗東トレセンで知り合いの某調教助手が声高に叫んだ。あの馬とはルージュバックのことなのだが、関東、関西といった単純な対決図式からくる発言ではない。“トレセン人”としての誇りからくる発言なのだ。
ルージュバックがノーザンファーム天栄から美浦トレセンに帰厩したのは今月12日。既走(競馬を経験している)馬がレースに出走するために最低限、厩舎に入厩していなければいけない期間が10日だから、ほぼ限界値に近い在厩日数でオークスに出走することになる。これではもはやトレセンで仕上げるというより、レースへの経由地みたいなもの。トレセンで日々、馬を仕上げている人間が「あの馬に勝たせてはダメ」と言うのもなんとなく分かる気がする。
とはいっても、今や短期放牧を利用してのGI出走は日常茶飯事。先の天皇賞・春を勝ったゴールドシップにしても、レース18日前に吉澤ステーブルWESTから帰厩して、淀の3200メートルを押し切ってしまった。
改めてオークスの出走メンバーを見ると、前走後に短期放牧に出された馬のなんと多いことか。レース間隔の短いフローラS、スイートピーS組を除く14頭のうち、実に10頭がこの中間、短期放牧に出ているのだ。
日本ダービー2着後、夏の間もトレセンに居残り調整を続け、秋には見事に菊の大輪を咲かせたビワハヤヒデ(1993年)のエピソードなど、もはや遠い昔のこと。わずか1か月ほどのレース間隔でも、一旦は放牧に出すのが現代競馬における「勝利の方程式」になっていることは否定できない。
それでも、だ。トレセンで調教を見て、トレセンで取材をする人間からすれば、帰厩2週間程度の馬が勝ってしまうようなレースばかりだと正直、面白くはない。
その点、桜花賞制覇後も短期放牧に出さず、栗東トレセンで調整を続けているレッツゴードンキが、好調を維持しているのは何とも頼もしい限りである。
「ずっとトレセンにいるのは良くない面もあるんでしょうけど、同じ厩務員、獣医に見てもらえるなど、トレセンで調整することにも、そこでしかない良さがありますからね。今回? 桜花賞が楽に走って直線軽く追っただけのレースだったでしょ。本馬場(実戦の舞台になる芝)で追い切りをしたようなもので、疲れは全くなかった。しかも道中一度も引っ張るところがなかったから、馬にもストレスがかからず、落ち着きがあっていい雰囲気でこれてます。好調をしっかりと維持している感じですね」
レッツゴードンキを担当する寺田助手は万全の仕上がりに胸を張る。
NHKマイルCか、オークスか。桜戴冠の後、2つの選択肢があった中で、陣営はNHKマイルCに登録すらせず、オークス一本に絞っての調整を選択した。その采配の裏には鞍上・岩田の力強い助言があったという。
「マイルCかオークスか、まだ迷っている時に、岩田さんは何の迷いも見せずに『オークスの方が絶対にいい』って言い切ってくれた。それだけ(距離を)こなせる自信を持ってくれているんでしょう」(寺田助手)
空前の超スローとなった1冠目の桜花賞制覇は「楽逃げできた展開のおかげ」という見方が支配的だが、4着に敗れたクイーンズリングのミルコ・デムーロを始め、多くの名手と呼ばれるジョッキーたちがレース後、「あの勝ち馬は強い」と素直に能力の高さを認めていたことはもっと強調されるべきだろう。
そして本質的な適性が短距離寄りの馬でもポテンシャルの高さでオークスの距離2400メートルもこなしてしまうことは過去の歴史が証明している。
堂々桜の栄冠を勝ち取り、その後も高レベルで状態を維持していることはトレセンで確認済み。ならば「トレセン発(秘)話」というコラムタイトルを背負う以上、時代遅れと言われようとも、“トレセン仕込み”のこのレッツゴードンキを応援するのは至極当然と言わせてもらおう。
(栗東の坂路野郎・高岡功)