2012年に生まれたサラブレッドの頂点を目指し、今年も日本ダービーの季節がやってきた。馬も騎手も調教師もみんながその頂を目指す。昨年、地方競馬の全国リーディングで1〜3位までを独占し、騎手界の頂に立ったともいえる兵庫の園田・姫路競馬。豪腕揃いの騎手に「日本ダービー狙うならどの馬?」と聞いてみた。(取材・文・写真:大恵陽子)
田中学騎手「2回乗れば手の内に」
▲昨年、全国リーディングで1位に輝いた田中学騎手
昨年、地方競馬全国リーディングで1位に輝いた田中学騎手はサトノクラウンを推す。
「皐月賞は6着だったけど、負けて強しの内容だったよね。4コーナーで外に振られる不利もあったけど、内容が強かった。鞍上のルメール騎手は初騎乗だったけど、今回は2度目の騎乗だから大丈夫! 2回乗れば、だいたい手の内に入れられると思いますよ」と、テン乗りだった前走からの上積みを期待する。
田中学騎手は返し馬でじっくりと馬場を一周、馬と呼吸を合わせるようなキャンターを行った時は、いつも以上に上位の着順に絡むケースが目立つ。「レースは返し馬から始まっている」と常々考えているというが、2度目の騎乗となると返し馬はどう違ってくるのか。
「2回目だと返し馬で前回ミスした所を修正することもできます」
実は、本命馬をドゥラメンテと悩んでいたのだが最終的にサトノクラウンにした。
「ドゥラメンテの末脚は爆発的だよね。でもその反面、半信半疑なところが残るかな。それに、1番人気というのはチャンスも多いけど、勝って当たり前なだけにミスも許されない立場」と、普段から人気馬に騎乗することが多いだけに、その立場も理解する。
田中学騎手は、今年の年明けに地方通算3000勝を達成した。かつて「園田の帝王」と呼ばれた父・道夫元騎手と共に親子で通算3000勝を挙げるという初の快挙を成し遂げたが、それでも1番人気で挑むレースでのプレッシャーは変わらないという。
「やっぱり乗る方としては、プレッシャーがありますよ。それは何勝しようと変わりません」
ドゥラメンテが爆発的な末脚を武器にプレッシャーをはねのけるのか、サトノクラウンがルメール騎手と2度目のコンビで本領発揮するか。
木村健騎手「オレ、皐月賞当てたで!」
▲田中学騎手とリーディング争いを繰り広げた木村健騎手
昨年、大晦日まで田中学騎手とリーディング争いを繰り広げていたのは“キムタケ”こと木村健騎手。
「オレ、皐月賞当てたで!」と、満面の笑みで予想した日本ダービーの本命馬は、リアルスティール。
「皐月賞のレースが上手かった! ポジションもいいし、折り合いもついていて勝ちに等しいレースやったね。日本ダービーは、隊列が長くなってペースが落ちて上がり勝負になるだろうから、そしたらこの馬がダービーにピッタリやね!」と、デビューからの4戦すべてで上がり3Fで3位以内の末脚を使う同馬の適性を語った。
木村健騎手のお手馬には、昨年かきつばた記念を勝ったタガノジンガロや、兵庫版・皐月賞である菊水賞を単勝元返しの1番人気で勝利したインディウムなどが名を連ねる。本命馬に乗る時の心境はどうなのだろうか。
「1番人気でも自信を持って乗るから、乗りにくいとかはない」と、信頼関係の大切さを語る。そういった点で、リアルスティールは、デビューから一貫して福永祐一騎手が手綱をとってきた強みがある。
対抗は同じく末脚勝負のドゥラメンテ。こちらは皐月賞をはじめデビューから全てのレースで上がり最速をマークしている。「掛かる面があるけど、落ち着いたらすごい脚を使うよね。次元が違う」と、末脚自慢を挙げた。
木村健騎手は2010年チューリップ賞をショウリュウムーンで勝利。2011年オルフェーヴルが三冠を達成した菊花賞では、14番人気ハーバーコマンドを4着に持ってきた。
「JRAは頭数が多いから、同じ1番人気でも最大12頭立てのこっちとは受けるプレッシャーとかが違うかもしれへんけど」と、最後に付け加えたが、それでも人気馬2頭には推奨するだけのポテンシャルの高さを感じているのだろう。
川原正一騎手「10番手以内で折り合えつけば」
▲一昨年が全国リーディング、昨年も全国3位だった川原正一騎手
一昨年54歳にして全国リーディングに輝き、昨年も全国3位だった川原正一騎手は、新聞を見ながら「どれが強いか分からん…」と少し悩みながら結論を出した。
本命は、ドゥラメンテ。「皐月賞の4コーナーで外に吹っ飛んでも勝っちゃうんだもんね。直線の末脚のキレが違う。直線が長い東京コースも合いそうだね」
川原正一騎手で追い込みと言えば、ニシノイーグル。兵庫のスターホース・オオエライジンを唯一負かした地元馬だ。追い込み馬に乗っていて、仕掛けのタイミングなど焦ることはないのだろうか。
「焦るということはないね。自分の馬の走りやリズムに集中して、馬を信じていつも乗っています。オオエライジンに勝った時(2012年園田金盃)もライジンを意識して乗っていたわけじゃないからね。レースは生き物。何が起こるか分からないよ。この時期の3歳馬はまだ繊細だからね。JRAのように頭数が多くなると包まれる可能性があるから、どこで出られるかがポイントになるかもね。馬場にもよるだろうけど、内枠は厳しいかもしれないね」と、ポイントを挙げた。
「能力のある馬は、勝負所で自分から動いていく馬が多い。皐月賞でドゥラメンテはスタートがいまひとつで後ろからだったけど、日本ダービーでは後ろ過ぎない位置、そうだな10番手以内で折り合えさえつけばいいんじゃないかな」
2歳半の孫がいる“スーパーおじいちゃん”だが、豊富な経験と高い技術を冷静に使いこなす川原正一騎手。日本ダービーの予想もズバリ決めるか。
名だたるトップジョッキーがひしめく中で、虎視眈々とその座を狙う若者もいる。次は、若手騎手3名に「自分ならどの馬に乗って本命馬を負かしたいか」を聞いた。
吉村智洋騎手「ドゥラメンテの真後ろに」
▲若手の中で下剋上に1番近い存在、吉村智洋騎手
若手の中で下剋上に1番近い存在は、吉村智洋騎手。現在、兵庫リーディング5位。戦国大名・織田信長のイメージがピッタリな負けん気が強いガッツ溢れる騎手だ。
「ドゥラメンテは皐月賞で見ていて強かったですね。でも、もし自分があの馬を倒しにいく立場なら