山のようにある死角
前回のダービー卿CTで、他を圧倒する勝ち方を見せた
モーリス(父スクリーンヒーロー)のさらに広がる可能性に期待したい。ただし、死角は山のようにある。
まず、負担重量が現在の定量「4歳以上の牡馬は58キロ(牝馬56)」になったのが、1996年からのこと。
それまで「57(55)キロ」だった84年からの12年間では、4歳の勝ち馬はちょうど半数の「6頭」もいた。ところが、負担重量が増えた96年からは、過去19年間で「3頭」しか勝っていないのである。
その3頭は、98年タイキシャトル(G1を5勝した年度代表馬)、99年エアジハード(秋のマイルCSも快勝。10年の勝ち馬ショウワモダンの父)、08年のウオッカ(G1を7勝した年度代表馬)である。
同じ4歳の
ミッキーアイルは、NHKマイルCの勝ち馬であり、58キロをこなした経験もある。しかし、モーリスは58キロも初めてなら、トップクラスが集結するG1挑戦さえ初めてである。
東京コースの経験はあるが、出負けしたうえ折り合いを欠いて凡走。コースOKとはいい切れない。
川田騎手は過去乗ったことはあるものの、3戦1勝。乗り替わりがプラスとはいい切れない。
まだ折り合い面に心配があるから、好位追走などは考えられず、後方に控えて進むしかない。
頂点のG1挑戦に、これほど多くの死角を抱える人気馬は、そうそういるものではない。果たして、大丈夫なのだろうか?
でも、魅力は大きい。今春の中山では、衝撃的な勝ち方を見せた馬が、めったにないことに3頭もいた。
皐月賞を横っ飛びしながら猛然と差し切ったドゥラメンテは、日本ダービーも完勝してみせた。中山1600mでは史上最速とされる上がり32秒7の末脚を爆発させたサトノアラジンは、続く格上がりの東京1800mのオープン特別を、1分44秒7の快時計で楽勝している。そして、もう1頭が中山1600mで上がり3ハロン33秒0を記録したモーリスである。上がりの数字はサトノアラジンには及ばなかったものの、ペースが異なるから全体時計で2秒0も上回る1分32秒2を記録しながらの、究極の爆発力である。決してレベルの低くない相手のダービー卿CTを、4コーナー手前まで最後方近くに控えると、そこから外に回ってスパート開始。届くかもしれないと思わせた瞬間にはもう先頭集団を射程にいれ、あっというまに差し切ると、2着馬を3馬身半も突き離していた。急坂を含めた最後の2ハロンを推定「10秒8-10秒8」でまとめている。サトノアラジンとほとんど同じ最終2ハロンであり、こちらは重賞レースを3馬身半差である。
今年の安田記念は、ミッキーアイルが控えて進むことを公言し、武豊騎手の
カレンブラックヒルが主導権を握ると思えるが、カレンブラックヒルは快速系というより、パワー兼備の平均ペース型。飛ばしはしないだろう。これは初G1のモーリスには好都合。追走に苦労することはない。緩い流れは先行タイプに有利であると同時に、切れ味にこそ活路を見い出したい爆発力型にも有利である。この相手に馬群をさばこうとするには、経験不足のモーリスには無理があるから、大胆に大外一気で挑戦するしかないが、前回の切れ味を再現できるなら、そのほうがいいだろう。
58キロは不安だが、ここを勝って前述のトップホースに追いすがり、少しでも近づくためには、こなすしかない。前回は55キロだが、前々回は57キロで豪快に追い込んでいるから、500キロ台の大型馬、自身がとくに苦にすることはないと思える。
父スクリーンヒーローのファミリーは、ダイナアクトレスが代表する名牝系。母方は、メジロボサツ(テンポイントの母ワカクモのライバル)から発展するファミリー。モーリスに、底力と成長力を伝えているはずである。
自在型
フィエロと、緩い流れの上がり勝負でこそ切れる
サトノギャラントが相手本線。