優勝馬も2着馬も称えられなければならないが
素早く流れに乗り、2番手から抜け出して初G1を制した5歳
ラブリーデイ(父キングカメハメハ)は十分に称えられなければならない。また、上がりのかかるだろうレースに対応するため、最後方近くから直線だけの競馬に徹し、あと一歩のクビ差2着に突っ込んだ浜中騎手の5歳牝馬
デニムアンドルビー(父ディープインパクト)の好走も、賞賛に値する。
しかし、上半期の総決算にも相当するファン投票の「ドリームレース=宝塚記念」とすると、みんな振り返りたくないくらい、新しいファンにはあまり見せたくない無惨なレースだった。「馬のレースだからこういうこともある」「これがゴールドシップのキャラクターなのだ」で、少し問題点がささやかれるだけでは、わたしたちの競馬の未来は少しも明るくない。
今年は「全体に売り上げが微増している」などと胸をなでおろしている関係者もいるが、とりまく社会状況、生活の行き詰まり、人口構成図から考えるに、あと10数年=20年もしたら、1970年代中盤から「世界一の馬券売り上げ額」がささえてきた日本の競馬は、その馬券売り上げ額は半減どころか、3分の1くらいに減少する。ゴールドシップ絡みで投じられた約112億円が、一瞬で消えて、泣き寝入りで済むような時代は過ぎ去った夢物語になる。少しでも良質のレースを展開しながら、望ましい方向を探さないといけない。
パドックではまるで悟りきったかのように静かだった
ゴールドシップは、目隠しをされて1番先にゲート入りすると、我慢してずっとおとなしく待っていた。しかし、最後に隣のラブリーデイが入った直後、激変する。「落ち着いていたけど、あとちょっというところで『ウワッー』とうなって、ダメだった(横山典弘騎手)」。「昨年の天皇賞・春でもゲート内でほえて、ジャンプするように出たが、今回は、また怪獣みたいになった(須貝調教師)」。立ち上がってゲートに前脚をかけたあと、ごねながら着地した瞬間、ゲートがあくのと、また立ち上がったのはほとんど同時だった。
「態勢が整ったと判断してゲートを開けた(裁決委員)」と説明報道された。とてもそのようには見えない。大きな問題があって先にゲート入りしていたゴールドシップが、1度大きく立ちあがり、もう尋常ではないのはTVの画面を通してさえ明らかだった。1度着地しながら、裁決委員の説明通りだと、もしかすると(横山騎手がスターターの方を一瞬見た)かもしれないが?「おい、そこでスタートボタンを押すか?」というのが見守ったファンのストレートな感想である。
「各馬の発走態勢が整ったら、速やかに発走合図を送るのが第一」とされるが、ホントに発走態勢が整ったと判断したというなら、このスターターも、馬の後ろで手を挙げて合図を送った発走委員も、ウソつきである。各馬(騎手)の呼吸を見計らうのは、それは大変なことで、チャカチャカし、怪しい素振りをしている馬は18頭立てならほかにもいる。暴れかけると、声を出す騎手だっている。後方でスターターからは見えない各馬の脚元や動きを見守り、タイミングを計って合図を送る発走委員も、最高のタイミングでボタンを押すスターターにも、かかる負担や責任は想像を超えるだろう。まして、頂点のG1宝塚記念である。だが、スタートが切られた瞬間、「下手くそ!」。期せずして、驚きの声が上がった。
どうしてそんなに焦ったのか。人気馬の動向に合わせるのはフェアではないが、グランプリレースで断然の注目を集めているゴールドシップが尋常な状態でないのは、どの角度から見ても明らかである。いま、スタートボタンを押すと、ゴールドシップが(再び立ち上がる瞬間と合ってしまう)とまでは想像できなくても、いやしくもプロである。まともなスタートなどできようもなく、大きく出遅れることなど百も承知のスタートである。だから、「下手くそ!」だった。
2-3秒待っても、事態が好転するとは限らない。ゴールドシップはもっとおかしくなるかもしれない。だから(ならば)、着地したその瞬間に「ゲートを開けてしまえ」の見切りスタートだった気がする。この発想は、素晴らしい宝塚記念が行われ、競馬を愛する多くのファンが納得してくれるビッグレースの、大切な発走を担う職員として適切ではないと思えた。発走委員のプライドをかけた誇るべき宝塚記念の役割りは、このスタートで見事に果たせたのだろうか。
立ちあがって出遅れたゴールドシップは、客観的にいうと自業自得である。しかし、JRAの職員は、多くの馬の、まして宝塚記念に駒を進めてきた馬の味方でなければ変である。発走委員も、裁決委員も、多くの委員もその職務を別にして、心の底は競走馬のファンでなければウソである。これは決して非難ではない。頼みごとである。今回のスタートは、競馬を愛し、素晴らしいレースを見てもらうための(だれより競馬が好きな)職員たちではなかった気がしてしまったのである。ゴールドシップがちょっとどころか、すごく危ない馬であるのはだれよりも知っている。そんな悪ガキに自業自得の「懲罰」を課したかった、性根の良くない裁判官のように思えてしまった。
ゴールドシップに限らず、ゲート入り(発走)で問題を起こした馬は、オープンクラスでもいっぱいいる。具体的な名前は馬の名誉のために控えるが、すぐできる改善はどんなことだろう。
1、ゲート入りを嫌がる馬、スタート難の馬はいつだっている。競走馬にはストレスも怖がりな気性もある。入念なゲート練習はつらいことだが、デビュー前のゲート練習が少ない厩舎、スタート状況が良くない厩舎は現実に存在する。発走調教は重要な責務であることの徹底が求められる。古馬になってからの発走再調教は、多くのケースで失敗する。
1、発走委員の指導ムチ(長ムチ)は、一切禁止する。最近は減ったが、発走時間を守ろうとするのか、おとなしい馬をいきなり後ろから突っつく発走委員が多く存在した時代が続いた。最近報道された発走委員のムチ乱打事件など、多くのファンには非現実である。
1、ゲートボーイ(補助員)の必要性は以前から指摘されて久しいが、巨大な売り上げがささえる日本の競馬では、公正なレースが行われる重要性はきわめて高い。ゲート入りがスムーズに行われるためにも、ゲートボーイは必要である。費用は山のようにファンが捻出している。ゴールドシップも係員が横でなだめていたら、もうちょっと我慢できたかもしれない。
1、ゲート入りを嫌がる馬をゲートに誘導するのはアルバイトではなく、また発走に携わるのはすべてJRAの教育を受けた「馬を扱える責任ある職員」にする。
1、ゲート入りを目隠しなどの補助具を用いてもどうしても拒否し、規定(3-5分)の発走時間遅延をもたらした場合は、他馬への影響が大きく、すでに公正なレースが不可能なので、その時点で「競走除外」とする。その馬に罰則を科す必要はない。そのレースに限り、馬券返還の競走除外である。JRAは異常に返還を嫌うが、返還された金額はたちまち次の馬券購入資金となるので、少しも問題ない。