新馬戦の勝者と敗者の差はどこか…北出師が解説/吉田竜作マル秘週報
◆北出調教師も「鍛えるというにはまだ幼過ぎるし、かわいそうなところもある」と語っていたが…
先週1週間は当然ながら宝塚記念の取材が中心。水曜は追い切り、木曜は枠順確定と大舞台仕様で仕事をこなした。
枠順確定の際には調教師自らが投票所に足を運ぶことが多い。アドマイヤスピカをエントリーした松田博調教師もティアドロップのサングラスをかけてやってきた。この光景自体はハープスター、ブエナビスタなど大舞台に駒を進めた過去の多くの馬の時にも何度となく見られた、ごく当たり前のもの。しかし、この日は「吉田君、枠が決まったら電話をしてくれ」と言われていたくらいで、松田博師は来ないものと思っていた。当然、予定を変えた“理由”が気になる。で、探りを入れてみると…。
もうご存じの方も多いだろう。日曜(7月5日)の中京芝1400メートル(牝)新馬戦でデビューを予定していたリーチザハイツ(父ディープインパクト、母ドバウィハイツ)が骨折、その様子を診療所に見に来たのだ。
「ヒザの骨片を取る手術をするので全治は6か月だろう」との説明に、そばにいたN紙のM記者は「僕、POGで指名しちゃいましたよ〜」と涙声。この手の話はPOGにはつきものだが、救いは馬自身がまだまだ成長期にあることと、最近はヒザの手術の技術が上がり、馬体に以前ほどの負担をかけなくなっている点だ。
「一番飛びやすい部分の骨が飛んだだけ。それほど大変な手術でもないだろう。水曜に手術して、それから放牧に出ることになると思う。まあ若い馬だから無理はしてほしくないし、こうなったらじっくりいってほしい。別にウチの厩舎(来年2月いっぱいまで)で走れなくてもいいんだから」
馬を第一に考えるトレーナーらしい言葉だが、一ファンとしては松田博厩舎から羽ばたくシーンを見たいもの。奇跡が起こることを願いたい。
リーチザハイツは“マツパク流”のマの字もいかないところで骨折してしまったように、やはりこの時期の2歳馬はか弱く幼い。中京で激突するはずだったイイデシロ(父ファルブラヴ、母イイデサンドラ)の北出調教師も「鍛えるというにはまだ幼過ぎるし、かわいそうなところもある」と語っていた。
とはいえ、2歳新馬戦のスタートが繰り上げられたのに伴い、牧場の始動時期も早まった。早期デビューを目指す馬たちは次から次へと両トレセンへやってくる。そしてレースを迎えた馬たちは、勝ち上がる馬と敗れる馬に分かれるのだが、この差はどこにあるのか?
前出の北出調教師の言葉を借りれば、「もうこの時期に出来上がっている馬か、未完成でも高い能力のある馬が勝ち上がる」。イイデシロの場合は「性格が真面目で動きもしっかりしている」なら、出来上がっている馬となろうか。この手のタイプが初戦から結果を出すケースが多いように思える。
一方で多くはないものの、若さ丸出しで勝ってしまう馬もいる。土曜(4日)中京芝1400メートル新馬戦でデビュー予定のファビラスヒーロー(牡=父スウェプトオーヴァーボード、母サトノサクラ・野中)がそれに当てはまることになるかも。
中間の坂路でラスト1ハロン12.3秒の瞬発力を見せるなど、脚さばきの軽さはいかにも2歳戦向きの印象なのだが、「動きはいいんですけど、まだ鳴きながら走っているようなところがあるし、とにかく幼いんですよ」と野中助手。
陣営も悩ましいだろうが、こういうタイプは直前まで見極めが難しい。可能なら当日のパドックでのしぐさや馬場入りの際のアクションまで観察してもらいたい。一頭の馬の成長の証しを目撃するだけでなく、うまくいけば、おいしい馬券にもありつけるかもしれない。