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【祐一History vol.35】『騎手としての区切りとプライベートでの区切り』

  • 2015年07月14日(火) 18時01分
祐言実行

▲“運命の2013年”に訪れた大きな出来事を明かします


たったひとつの出会いで人間は変わる


「ここで乗りこなせなかったら“引退”──」

 そんな覚悟を胸に挑んだ神戸新聞杯。あのレースを勝てたことで得た自信は本当に大きく、ちょっと言い過ぎかもしれないが、「この難しい馬を乗りこなせたんだから、どんな馬でも乗りこなせる」と思えたほどだった。

 今思えば、ジョッキーとしてあのレースこそ岐路だったと思う。そこを無事、勝利という形で乗り切れたことで、本番の菊花賞はまったく緊張せずに挑めた一戦だった。ただ、今度は「乗りこなせました。折り合いも付きました。でも5着でした」では意味がない。さらに、最後方から行って、直線だけ脚を使わせる競馬も可能だが、あの馬に関しては、それでは3000mを乗りこなしたことにならないという思いがあった。

 自分があの菊花賞で成し遂げたかったのは、あくまで正攻法の競馬で勝つこと。相手関係から多少掛かっても勝てる自信はあったし、とにかく正攻法で勝つことだけを目指した。

 結果は5馬身差の勝利。本当に本当にうれしい1勝だった。レースから引きあげて来たときに、思わず口をついて出たのが「やっと…、やっとや!」という言葉だったのだが、どうやら「やっと男馬のクラシックを勝てた」という意味で“やっと”という言葉をとらえた人が多かったらしい。

 でも、実際は違った。自分の技術が未熟なばかりに、皐月賞、ダービーを惜敗。そこからトレーニングメニューを変え、意識改革を経て、「やっとエピファネイアで結果を出せた」という意味での“やっと”だった。

祐言実行

▲逃げるバンデを直線入り口でかわし、後続に5馬身差をつけて完勝


祐言実行

▲「やっと結果を出せた」静かに、力強く右手を握りしめた


 以前にも書いたが、男馬でのビッグタイトルが少ないことで、ジョッキーとしての説得力に欠けるところはあると思う。が、自分自身、そのことをプレッシャーに感じたことは一度もなかった。翌日の新聞には、

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祐言実行 / 福永祐一
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祐言実行とは
2013年にJRA賞最多勝利騎手に輝き、日本競馬界を牽引する福永祐一。まだまだ戦の途中ではあるが、有言実行を体現してきた彼には語り継ぐべきことがある。ジョッキー目線のレース回顧『ユーイチの眼』や『今月の喜怒哀楽』『ユーザー質問』など、盛りだくさんの内容をお届け。

1976年12月9日、滋賀県生まれ。1996年に北橋修二厩舎からデビュー。初日に2連勝を飾り、JRA賞最多勝利新人騎手に輝く。1999年、プリモディーネの桜花賞でGI初勝利。2005年、シーザリオで日米オークス優勝。2013年、JRA賞最多勝利騎手、最多賞金獲得騎手、初代MVJを獲得。2014年のドバイDFをジャスタウェイで優勝。

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