近年の関屋記念を象徴するペース
前半はゆっくり入り、最後の直線約660mで猛然とスパート。すっかりこのパターンが完成された新潟のマイル重賞は、今年は頭数が12頭と少なく、確たる先行馬もいなかった。
かなりのスローが予測されたが、それにしても最初が遅かった。過去の関屋記念のスローペースの代表例は、マルカシェンクの勝った2008年、レッツゴーキリシマの逃げ切った2010年がその典型。今年はその2年に並び、近年の関屋記念を象徴するペースになった。
前半600m-800m-(1000)後800m-600m
08年 「36秒0-48秒3-(59秒9)-44秒5-32秒9」=1分32秒8
10年 「36秒2-48秒2-(59秒7)-44秒7-33秒2」=1分32秒9
15年 「36秒4-47秒9-(59秒3)-44秒7-33秒3」=1分32秒6
2008年は、前後半800mの差が「3秒8」も生じ、前半1000m通過は59秒9。レース上がり32秒9だった。今年はそこまでではないが、前後半の差は「3秒2」もある。
スタート直後、どの馬も先頭に立って目標になるのを嫌ったか、前半3ハロンは「13秒2-36秒4…」だった。スタート直後の「13秒2」。また前半3ハロン「36秒4」は、2001年に現在の直線の長い新潟コースに変わって以降、今年がもっとも遅く、最初はゆっくり出てスローという点では、史上最遅のスローだったかもしれない。
1週目の古馬500万条件の新発田城特別1600mは、1分33秒2の決着。レースの内容は、「34秒5-46秒0-(57秒9)-47秒2-35秒3」である。
前半800mの入りが「約2秒」も速くても、レース全体の勝ち時計は関屋記念と大差ない1分33秒2にとどまるから、レベルは別にして、スローの競馬には、スローペース独特の見どころが生じるのは事実である。結果として脚を余した陣営にはかなり物足りない1600mだったが、前半スローは最初からみえていたから、敗因を他馬の出方に転嫁できない。
勝った
レッドアリオン(父アグネスタキオン)の川須栄彦騎手(23)は、素晴らしかった。
出負け気味でも、最初の1ハロン13秒2だから苦もなく先行態勢に持ち込めた。前半の3ハロンは
スマートオリオンと並走するように良馬場のマイル重賞とすれば例をみない「36秒4」。しかし、あまりのスローに自分でレースを作ることを決断すると、4ハロン目から「11秒5-11秒4-11秒2-10秒7…」。自分でどんどんピッチを上げている。
最初の3ハロンまでは史上最遅のスローだったが、前半800m通過、1000m通過はもう歴史的なスローではなく、08年、10年を追い越した。それでもスローには違いないが1000m通過は「59秒3」にまで持ち直している。自身で歴史的な超スローを脱したあと、直線に向くと「11秒2-10秒7…」。さらにピッチをあげ、2番手のスマートオリオン、
ヤングマンパワーなどを一度突き放してしまった。
このときまでコンビで【3-1-0-6】。決してジリ脚ではないが、並んで切れるタイプではないのを川須騎手は知り尽くしている。このあたりは同厩舎の半兄クラレント(父ダンスインザダーク)に似たところがあり、同じアグネスタキオン産駒では、自分からスパートしないと能力全開とはならないグランデッツァに通じる部分もある。好位から抜けだした昨2014年のクラレントのレース運びとはちょっと異なるが、レッドアリオンの1分32秒6に対し、クラレントは昨年、「58秒7-33秒8」=1分32秒5だった。
勝ちタイムがほぼ同一というだけでなく、スパートして速い脚を使った場所にきわめて似たところがある。橋口調教師にとり、痛快な兄弟制覇の連勝だった。
2着に突っ込んだ
マジェスティハーツ(父は橋口調教師のハーツクライ)は、目立ってデキが良かった。速い時計を要求されるマイル向きというタイプではないが、中身が独特のバランスになる関屋記念ではこういうタイプも通用する。タメて末脚を温存、上がり3ハロン「32秒4」は、今回のメンバーでは断然のNO.1だった。ゴール寸前の勢いから、騎乗した森一馬騎手(22)には残念な2着だが、マジェスティハーツが上がり3ハロン「32秒台」を記録したのは今回が初めてである。ベストは1800-2000mと思えるから、このあとに注目したい。
速い上がりを期待されたのは、3番人気の
サトノギャラント(父シンボリクリスエス)。直線の中ほどでは素晴らしい手ごたえで先行馬を射程に捕らえている。しかし、少し外側を探したがスペースがなく、最終的に狙った場所があまりに悪かった。大外に回るタイプではなく、スペースを探して割って突っ込む追い込み馬だから、前を締められてはアウト。たまたまだが、そこだけはダメという場所に突っ込んで前を塞がれてしまった。
3歳ヤングマンパワー(父スニッツェル)は、直前に函館から新潟入りする手法を取って、プラス18キロの540。やや立派すぎるかと映ったがうまくレースの流れに乗り、ゴール前でよれる場面もありながらも3着確保。このあとの展望が開けた。これまでは前半に行けないケースが多かったから、スローとはいえ先行できた自信は大きい。
1番人気の
カフェブリリアント(父ブライアンズタイム)は、落ち着き払った好気配だったが、レースではあまりのスローに前半の折り合いを欠いている。ここまで芝のレースでは先行したことがなく、スローなら行けばいいというタイプでもない。確かに新潟コースに良績はあったがそれは短距離戦でのこと。休み明けでもあり、いきなり新潟1600mの特異なスローペースに対応できなかった。
スマートオリオン(父グラスワンダー)も流れに対応できなかったのが最大の敗因か。不利のない2番手だったが、慣れない1600mで前のレッドアリオンに、(控えながらも)だんだんピッチを上げる巧みな戦法を取られ、完全にリズムが崩れてしまったように見えた。中京記念は1分33秒4(自身の上がり35秒1)。今回は1分33秒1(自身の上がり33秒4)。走破時計は同様でも、まったく別バランスのレースだったのが応えている。
エキストラエンド(父ディープインパクト)は珍しくレースの流れに乗れたが、この馬もしだいにピッチが上がるようなレースは不向きか。勝負どころでムチを落とした不利も重なった。