ダート王の血、そして育成経験が生きるタルマエ半弟ホッコーフウガ/吉田竜作マル秘週報
石橋助手「馬っぷりなんかは同じ時期のタルマエと比べて、こちらの方がいいくらい」
いわゆる「クラシックロード」を中心に若駒を追う当コラムは、ダート路線を歩む馬を取り上げる機会に恵まれないのだが、改めてダートで頂点を極めようとする馬たちの足跡を追うと、実にバラエティーに富んだ成長過程を踏んでいる。
芝路線と比べてしまえば、番組体系が貧相なダート路線は出走レースの幅が狭く、選択肢も少ない。これが厩舎サイドにいい意味での“開き直り”を与え、それによってできた時間的な余裕が、ダート馬たちの個性あふれる成長パターンとなって表れているのだろう。
現在、ダート界で頂点に君臨する馬といえばホッコータルマエ。交流GIのタイトルはあらかた片付け、昨年はついにJRAのチャンピオンズCも制覇。押しも押されもせぬ存在となった。しかし、この絶対王者もデビューのころは大きな期待をかけられていたわけではない。
ある意味“伝説”となっているのが、3歳になってすぐに迎えた1月の新馬戦(京都ダ1400メートル)。11番人気という低評価が示す通り、調教段階から動きも地味なら、結果も3秒1差11着という夢も希望もないような船出。この時点でホッコータルマエがのちにGIを制するなどと、誰が想像できただろうか?
ご存じの通り、「生産→引退」のサイクルが速いサラブレッドにとって、この手の“晩成型”が生き残るのはかなり難しい。そんな目まぐるしい時間の流れの中で、西浦厩舎のスタッフたちがホッコータルマエの秘めた能力を認めたからこそ、時間をかけながらこの希有な才能を開花させることができたと言っていい。競馬に「タラレバ」は禁物だが、ホッコータルマエが違う厩舎、違う担当者だったとしたら、現ダート王は別の馬になっていたかもしれない。
競馬のいいところは、それこそ速いサイクルで進むだけに、得た経験をすぐに生かせることだ。ホッコータルマエの半弟ホッコーフウガ(父ゴールドアリュール、母マダムチェロキー)は兄と同じ西浦厩舎へと入厩済み。先週にはゲート試験もクリアした。しかし、このままデビューを目指すことはなく、一旦は放牧に出される。
「ゲート練習をしてちょっとお疲れという感じもするんで。目の周りも黒くなってきましたし…」と担当の石橋助手が言えば、西浦助手も「お兄ちゃんもデビュー戦はあんなだったし、ゆっくり良くなっていく血統なのは間違いないから」と兄の経験を踏まえての戦略を頭に描いているようだ。
「この血統だから、ゆくゆくはダートで活躍となるのでしょう。馬っぷりなんかは同じ時期のタルマエと比べて、こちらの方がいいくらい。大きいんだけど、乗っているとそれほど持て余している感じもしないんですよね。いいものを持っているのは確かだと思います」(石橋助手)
確かな素材と兄で培った経験がかみ合えば、この世代を代表するダートホースとなれるかもしれない。もう少し先になるであろうデビューの時まで、このホッコーフウガの名前を覚えておいてもらいたい。