スマートフォン版へ

いつも以上に菊花賞と結びつけるのが難しいトライアル/セントライト記念

  • 2015年09月22日(火) 18時00分


先週の京成杯AHとまったくそっくりに「1着から10着」まで「0秒4差」の接戦

 きわめて興味深い大接戦が展開された。上位はほとんどが微差の写真判定であり、1週前のメインが再生されたかのようなゴール前だった。「1着から10着」までがわずか「0秒4差」。横一線にも近い小差で決着したのは先週の京成杯AHだが、このセントライト記念もまったくそっくり、「1着から10着」まで「0秒4差」の接戦に持ち込まれたのである。

 混戦の京成杯AHで、掲示板に載った上位人気馬は、馬券に関係しない4着に「3番人気」の馬がかろうじて食い込んだだけ。このセントライト記念も同じ。かろうじて着順掲示版に載ったのは「3番人気」のベルーフが差のない5着に踏みとどまったのみ。人気の1、2番人気馬は全然惜しくない5着以下だった。

 京成杯AHのゴール前が大接戦に持ち込まれたのは、みんな納得である。ああいういう接戦になるのが理想のハンデ戦だから、決定的な差がついたりしては興ざめになりかねない。

 しかし、セントライト記念は「菊花賞のトライアル」である。注目の有力馬は大半が休み明けだから、トライアルらしい結果はそれはそれで仕方がないが、日本ダービー2着のサトノラーゼン(父ディープインパクト)は、ゴール前は伸び負けして、伏兵に差し返されて7着。2番人気のブライトエンブレム(父ネオユニヴァース)はちょっとスパートしかかっただけの10着。5着した3番人気のベルーフ(父ハービンジャー)も、差は0秒2とはいえそう惜しい内容ではなかった。

 乱暴なレース全体の短評は、「菊花賞候補がこんなにいっぱいいるわけがない。よって、本番の結果は推して知るべし…」となりかねない。関西の池江厩舎のサトノラーゼンと、ベル―フは、レースの前に「なぜ、神戸新聞杯ではなく、セントライト記念に遠征してくるのだろう」。さまざまな推測はできても、正直、どうしてこういうレース選択になるのか不透明の部分があった。注目の候補が7着と5着にとどまり、これはトライアルにすぎないからみんな納得だが、「しかし、それにしても…」というのが共通の感想である。

 レース全体の流れは「61秒1-(12秒6)-60秒1」=2分13秒8。先週の京成杯AHも、紫苑Sも良馬場の1600〜2000mで概算「0秒8〜1秒0」くらいは平均より時計を要する芝コンディションに変化しているから、タイムでレースレベルを推し測るのは難しい。

 また、はっきりスローだったため、4コーナーを回る地点で先頭のミュゼエイリアン(父スクリーンヒーロー)も、勝ったキタサンブラック(父ブラックタイド)も、ともに手綱を押さえたまま後続が並びかけてくるのを待っている。最後の2ハロンに、レースの中で最高と2番目に速い「11秒5-11秒6」が刻まれた。新潟なら再三出現するが、ゴール寸前が急坂の中山ではめったにみられない特殊なラップである。最後の2ハロン「23秒1」は、実は同じような大接戦になった京成杯AHの直線「11秒3-11秒8」=23秒1と、まったく同じ最終2ハロンである。

 クッション性を高めるためのエアレーション作業をほどこされた「現在の中山の芝」では、直線が短いゆえ、スローだとこういう似たようなラップの後半だけの勝負になりやすいのだろうか。これはどんな馬でも乗り切れる最終2ハロンであり、だから、「大接戦」になるのだろうか? いつもの年以上に、菊花賞と結びつけるのが難しいトライアルではないだろうか(最近10年では、2着馬にセントライト記念組が3頭いるだけ)の印象が残った。

 勝ったキタサンブラック(母の父サクラバクシンオー)は直前の猛調教がきいて、馬体重は増えていてもスッキリ映った。春より胴長に変化した印象もある。距離3000mが歓迎ではないのは確かだが、ふと、2002年の菊花賞で小差3着したメガスターダム(父ニホンピロウイナー)を連想してしまった。距離不安がささやかれて、皐月賞は5着(16番人気)、日本ダービーは4着(9番人気)だったが、マイルの王者ニホンピロウイナー産駒でも距離延長はほとんど苦にしないと判明した菊花賞では、3番人気でヒシミラクルの0秒1差の3着。皐月賞、日本ダービーよりずっと中身の濃いレースを展開している。みんなに距離の死角があるのが現在だから、3000mが厳しい流れになる可能性は低い。陣営も、菊花賞挑戦に決断がついたはずである。

 ミュゼエイリアンも勝ったキタサンブラックと同様、長丁場になってさらに良さが生きるタイプではないだろうが、評価急上昇のスクリーンヒーロー(その父グラスワンダー)産駒で、母の父エルコンドルパサー。自在のペースで先行できるから侮れない。たぶんスローで行ける。

 ジュンツバサは、500キロ以上あるのではないかと思わせるスケールあふれる身体で、同じステイゴールド産駒では、フェノーメノを思わせる素晴らしい体つき。初期の産駒とは違い、いかにも父の評価が上がってからの産駒を思わせる。母は、1999年のセントライト記念を勝ったブラックタキシード(父サンデーサイレンス)の半妹。インからねじ込むように3着した勝負強さは光った。キャリアを考えると、1、2着馬に少しも見劣らない。

 人気のサトノラーゼンは柔らかい体と、日本ダービー2着馬らしさがかもしだす雰囲気で上回ったが、レース内容は案外の7着。日本ダービー好走が近年の人気馬にしては珍しい10戦目だったから、使って良くなるタイプは間違いない。セントライト記念出走は、神戸新聞杯組より本番との間隔に余裕がもてる利を、菊花賞で生かしたい。でないと、セントライト記念出走はいったいなんだったのだ、となりかねない。

 同じ池江厩舎のベルーフ(父ハービンジャー)は、好スタートから巧みに下げて直線は突っ込んだが、つつまれ気味。ハービンジャー産駒は、(個人的には)インの隙間を探すようなセコいレースは合わない気もするが、今回は内枠だったからあれが最善策か。本番は秋3戦目。サトノラーゼンとともに、あえて王道の神戸新聞杯ではなく、一般には菊花賞とは結びつかないとされるセントライト記念をステップにした意味があったことを、本番で示したい。

 期待したブライトエンブレム(父ネオユニヴァース)はうまく仕上がっていたが、パドックで歩き始めると、お上品に映ってしまい、菊花賞を展望する馬らしい迫力がなかった。立て直しには成功したが、大切な時期の5か月の休養は予想されたよりはるかに痛い、文字通りの「ブランク」になってしまったのかもしれない。このあとの変身、成長に期待したい。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング