史上初めてとなる女性の優勝騎手誕生となった メルボルンカップ回顧
フェイムゲーム、ホッコーブレーヴにとっては厳しい展開に
豪州競馬の祭典「第155回メルボルンC(芝3200m)」が、3日にフレミントン競馬場で行われた。
10月中旬には日中の最高気温が34度という、真夏並みの暑さに見舞われるなど、近年でも稀なほど暖かく、雨の少ない春を過ごしていたメルボルンの空模様が、様変わりしたのが10月の下旬だった。日によって天気が目まぐるしく変わり、更に言えば、1日のうちに四季があると言われるほど寒暖差の激しい、この時季のメルボルンらしい気候に戻ったのである。
朝夕はコートを着ていても寒いほどに気温が下がり、メルボルンCの前哨戦の1つであるG3ジロングCが行われた21日は昼前からどしゃ降りの雨となった。これが文字通りの呼び水になったかの如く、その後は不安定な空模様が続き、メルボルンCを3日後に控えた10月31日(土曜日)、G1ヴィクトリアダービーをメイン競走とした日の、フレミントンの馬場はSoft(=重馬場)となった。
その段階で出ていた予報は、3日後まで毎日雨が降るというもので、所によっては雷雨の可能性もあるとの見立てに、戸惑うことになったのが競馬ファンだった。この時点で、メルボルンCへ向けた前売りで抜けた1番人気になっていたのは日本から遠征していたフェイムゲーム(牡5)だったが、道悪になった場合、ステイヤーとはいえ切れ味を武器にするこの馬を、買えるのか、買えないのか、ファンは迷い始めた。馬場が重くなればなるほど、ヨーロッパからの遠征馬を利すると考えたファンも少なくなかったようで、例えば今年のG1アスコットGC(芝20F)勝ち馬トリップトゥパリス(セン4)あたりの単勝は、倍率が下がりはじめた。
ヴィクトリアダービーと同じ31日に行われた枠順抽選で、日本馬2頭は明暗を分かつことになった。フェイムゲームが引き当てたのは、24頭立ての12番。内過ぎず、外過ぎず、悪くない枠だった。ところが、前哨戦のコーフィールドCでも外枠を引き、終始馬群の外を廻らされる羽目に陥ったもう1頭の日本調教馬ホッコーブレーヴ(牡7)が引いたのは20番。またしても、難しい枠に入ってしまった。
2頭にとっての朗報は、天気予報がその後、良い方向に外れたことだった。1日(日曜日)は雨が降らず、2日(月曜日)は予報通りの降雨があったものの、レース当日の3日は「曇り空」との見立てに反して、フレミントン上空には青空が広がった。当日の馬場発表はGood(=良馬場)。日本馬2頭が本領を発揮出来る舞台となった。だが結果は残念ながら、当日の空模様のように晴れ晴れとしたものとはならなかった。オッズ5倍の1番人気で出走することになったフェイムゲームは、スタートを切ると鞍上Z・パートンがじわじわと内側に馬を寄せつつ、中団後ろ目のポジションをとりにいった。
ところが、4コーナー奥の引き込み戦からスタートした馬群が、周回コースと合流する地点に差し掛かった辺りで、フェイムゲーム周辺の馬群がごちゃついた。揉まれて頭を上げかける場面のあったフェイムゲームを、これ以上のトラブルは御免だと考えたパートンは、馬群の外に持ち出したが、この段階で既に、スタート前には落ち着き払っていたフェイムゲームの、闘争心に火がついた状態になってしまった。なおかつ、序盤のペースはスローで、パートンはフェイムゲームを宥めるのに苦労することになった。長距離戦で序盤から折り合いを欠き、展開も不向きなものとなっては、いかに力のある馬でも好勝負は覚束ない。直線では大外に持ち出して追い込みを図ったが、残念ながらフェイムゲームは13着に敗退した。
一方、オッズ41倍の16番人気での出走となったホッコーブレーヴは、好スタートを切った後、これも鞍上のC・ウィリアムスが巧みに馬を内に寄せて行きつつ、14〜15番手の外目に位置することになった。コースロスなく4コーナーを廻り、直線に入って追撃態勢に入ったホッコーブレーヴにアクシデントがあったのが残り400mを切った辺りだった。内にいたガストオヴウィンド(牝4)が急激に外によれ、2度にわたってホッコーブレーヴに接触したのである。勢いをなくしたホッコーブレーヴは、17着に敗れている。
1番人気のフェイムゲームだけでなく、2番人気(6倍)に推されたトリップトゥパリスも、3番人気(9倍)に推された昨シーズンのG1ヴィクトリアダービー(芝2500m)勝ち馬プリファーメント(牡4)も馬券に絡むことが出来なかった今年のメルボルンC。勝ったのはなんと、オッズ101倍で最低人気だったプリンスオヴペンザンス(セン6)だった。同馬の父は、日本で種牡馬として供用された後、ニュージーランドに移籍して成功したペンタイアである。頭角を現してきたのは4歳の秋で、コーフィールドのLRモーニングトンCプレリュード(芝2000m)に優勝。5歳春にG2ムーニーヴァレイC(芝2500m)で重賞初制覇を果たし、この頃から陣営はメルボルンCを意識し始めたという。
6歳を迎えた今季は、使われつつ調子を上げ、1年前に重賞初制覇を果たしたG2ムーニーヴァレイCで今年は2着となって、メルボルンCに臨んでいた。女性騎手ミシェル・ペインを背に、1番枠から出たプリンスオヴペンザンス。道中は10番手の内埒沿いで脚を溜め、3〜4コーナー中間辺りから外に持ち出しつつ進出。直線では馬場の真ん中を突いて追い込みを図り、残り1Fで先頭へ。ヨークのG2ロンズデイルC(芝16F88y)を勝って遠征してきた愛国調教馬で、F・デトーリが手綱をとったマックスダイナマイト(セン5)がゴール前で詰め寄るも、これを半馬身しのいでプリンスオヴペンザンスが優勝を飾った。
メルボルンC史上初めてとなる女性の優勝騎手となったミシェル・ペイン(30歳)は、調教師パディー・ペインの末娘で、ノーザリーに騎乗してコックスプレートを制したことのある兄パトリック・ペインをはじめ、係累の多くが競馬と関わっている一家に生まれ育った。彼女のメルボルンC騎乗は、アレワンダーに騎乗し16着となった09年に続く、2度目のことだった。
そして、プリンスオヴペンザンスの厩務員を務めるのが、ダウン症候群というハンデを背負っている、ミシェルの兄スティーヴ・ペイン(32歳)だ。ミシェルが生まれた直後、10人の子を産んだ母が交通事故で亡くなり、兄弟は幼少の頃から互いに助け合って成長してきた。現在も、ミシェルとスティーヴは同じフラットに住み、共同生活を営んでいる。ちなみに、枠順抽選で1番という絶好枠を引き当てたのは、スティーヴだった。
なお、このレースで過去2着が3回あり、今年が5度目の参戦だった英国調教馬レッドカドー(セン9)が、ゴール前100m付近で競走を中止。左前脚の種子骨を骨折していることが判明した同馬は、メルボルン大学のエワクインセンターに搬送され、緊急手術を受けた。命に関わる疾病ではないが、現役生活の続行は不可能と発表されている。