▲新天地を求めていよいよ栗東移籍へ、そのいきさつを明かします
GI級の馬たちとの出会いによって、騎手魂に再び火がついた中谷雄太騎手。さらには、サポートしてくれる周りの方々の協力もあり、騎手としての意識も高まっていきます。新天地を求め、いよいよ栗東移籍へ。その背景には、矢作芳人調教師という大きな存在がありました。(取材:東奈緒美)
(前回のつづき)
今は仕事のことしか考えてない
東 2013年の暮れに活動の拠点を栗東に移された時、サポートしてくださったのが矢作先生だとお聞きしたのですが?
中谷 矢作先生です。先生がいなかったら、今の自分はいないと思いますからね。先生には感謝してもしきれないくらいです。そもそも自分の気持ちとして、栗東に行きたいなというのはあったんです。美浦で乗っていた時の馬は、ローカルでも勝負には厳しいなっていう馬も多くて。結局この世界は、結果が出なかったら落ちぶれていくだけですからね。
東 勝てる馬に乗れる環境を求めて、栗東移籍という選択肢を。
中谷 はい。ただ美浦にいる時は、数はそこそこ乗せてもらっていたんです。その分栗東に来たら、最初は同じ数は乗れないだろうというのは覚悟しました。でも、この際数は関係ないなと思って。
その頃、たしか中京開催の時だったかな? 矢作先生とお話する機会があって、「関西馬に乗ってみたいんです。栗東に行ったことがないし、先生のところで調教に乗せてもらえないですか」って相談したら、「いいよ。来ればいいじゃないか」って言ってもらったんですよね。
東 矢作先生とのつながりは、その時からですか?
中谷 いや、もともとは馬主の三浦大輔さん、…というか、初めは(松岡)正海なんですけどね。正海がリーゼントブルースで勝ったときに、2人で横浜スタジアムに応援に行ったんです。その夜に、三浦大輔さんと先生とご飯を食べに行って。そこから徐々に、先生とも会う機会が増えてという感じです。
東 ある意味、松岡騎手のおかげでもあるんですね。
▲「ある意味、松岡騎手のおかげでもあるんですね」
中谷 正海は後輩なんだけども、ずっと仲よくしてもらっていて。本当にいいヤツ。僕はジョッキー同士で仲よくするタイプじゃないので、プライベートまで一緒にいることってほとんどないんですけど、正海とは1週間のうち半分ぐらいは一緒にいたんじゃないかな。
東 栗東に行くことも相談されたんですか?
中谷 実は、最初は何か月とか短期で帰るつもりだったんです。だから正海には「ちょっと矢作厩舎に行ってくるわ!」みたいに言ったと思います(笑)。
東 そこからどうして完全移籍されることに?
中谷 それも、矢作先生が気にかけてくれたからです。「雄太、これからどうするんだ?」「先生、年明けの開催が中京、小倉、中京だから、その3カ月は栗東から通いたいんです」っていう話をして。そうしたら、「向こう(美浦)は大丈夫なのか? うちはいいけど、向こうにもお世話になった人がいるんだろう」って。
自分としては、ずっと葛藤があったんですよね。栗東に来て1年ぐらい経った時かな。騎手を続ける以上は、こっちで勝負したいっていう気持ちになっていって。中途半端だなっていうのも、ずっと感じてましたしね。先生にも相談して、所属変更した方がうまくいくだろうなって。
東 所属変更すると、やはり違うものですか?
中谷 “お客さん”の感じがなくなって、“栗東の騎手”って見てくれるようになったのは感じますよ。それから乗り鞍も増えたと思いますしね。
東 栗東と美浦とでは雰囲気も違うと思うんですけど、すんなり入っていけましたか?
中谷 どっちかがいい、どっちが合わないというのは全然なくて。僕自身は、どこにいても変わらない仕事をしているつもりですし。ただ、今の方が結果が出ているので、それは何が違うんだろうな??
東 関西の水が合うんですかね。ノリも関西っぽいですもんね(笑)。
中谷 たしかに水は合うのかもしれない(笑)。結構僕も言いたいことを言うタイプなので。関東だと生意気だって思われるけど、こっちだとわりと受け入れてもらえる感じがして。聞いてるか聞いてないか、分からないですけどね(笑)。
東 関西人は半分聞いてないですよ(笑)。私もそうなんですけど、結構適当ですよね。みんな自分がしゃべりたいことをしゃべって(笑)。
中谷 その感じも、僕には良かったのかもしれない。自分がしゃべりたいことしゃべって、向こうも「ああ、そうなん」って言って。コミュニケーションは結構取れてるのかなっていう感じはします。
東 逆に、関西人は踏み込みすぎるから嫌だっていう人もいますが?
中谷 ああ、そういうのは全然平気です。むしろ、どんどん来てほしい(笑)。
東 やっぱり関西が合ってるんですね。しかも、矢作先生という強い味方もいらっしゃって。矢作先生って優しいですよね。皆から頼られる、すごく器の大きな先生というイメージです。
中谷 あの器はどこまであるんだろうっていうくらい、めちゃくちゃ優しいですからね。僕だけじゃなくて、皆が先生を頼る。自分が先生ぐらいの年になった時に、そういうことができる人間になりたいなって思います。いろんな意味で尊敬していますし、これだけお世話にもなっていて、先生に足を向けて寝られないですよ。
▲「これだけお世話にもなっていて、先生に足を向けて寝られないですよ」
東 プライベートで先生と飲みに行かれることもあるんですか?
中谷 そうですね。ただご存じの通り、先生は忙しくてなかなかこっちにいないですので。こっちにいる時は「飯食いに行くぞ」って誘ってもらえるので、先生がいる時はできるだけ用事を入れないようにしてます(笑)。
東 2人でお酒を飲みながら、語ってそうですね。
中谷 でもね、あんまり仕事の話はしないですよ。大体がギャンブルか女性の話(笑)。競馬について熱く語ることは、あまりないなぁ。なぜかって? 言わなくても伝わるから。まあ本当に、矢作厩舎の馬にたくさん乗せてもらっているし、他の厩舎からの依頼もだいぶ増えてきて。だからこそ、ここで結果を出さなきゃいけないっていうのはありますよね。
東 それはプレッシャーでもありますか?
中谷 栗東に来たばかりの頃は、自分にプレッシャーをかけすぎてたのはあったかな。でもここ1年くらいは、そのプレッシャーを楽しんでます。レースに対して緊張するというのはなくて、毎日の仕事に対する張り合いというか。最近は結果も少しずつ出せるようになってきたし、今は本当にもう、仕事のことしか考えてないです。
東 充実感が伝わってきます。今、楽しいですか?
中谷 最高に楽しいですね!「騎手人生をかけた大勝負」、本当にそういう思いで移籍したし、今もその思いで乗っています。このまま突き抜けられないようだったら、もう無理だろうっていうのもあるので、本当に今が勝負どころ。馬もある程度揃ってきて、これからだと思いますしね。勝負をかけてよかったなって、本当に思ってます。
(つづく)