タガノ冠号八木オーナーの悲願に応える 必勝仕上げタガノエトワール/トレセン発秘話
◆松田博師「八木オーナーの馬でもう一回GIに使いたいんや」
今年のダービーウイークの共同記者会見時のこと。調教師生活最後のダービーに対する思いを聞かれたレーヴミストラルの松田博調教師が、ぶっきらぼうにこう返した。
「権利が取れたから使うだけであって。正直、(最後のダービーだからって)そんなには期待してないですよ」
来年2月いっぱいで定年となる松田博調教師には、毎週のように「最後の重賞」「最後のGI」といった形容詞がついて回る。が、それに対するトレーナーのスタンスはあくまで“平常運転”なのだ。
「“勝ちたいレースですか?”とか聞かれても正直、困るわな。どんなレースも一緒と思ってやっているんやから」
騎手時代に勝てなかった「中山大障害以外、個別のレースに対して特別な感情を抱くことはほとんどない」と普段から公言してきた松田博師。だが、タガノエトワールの前走、清水Sに関しては“何としても勝ちたい”強い気持ちでレースに臨んだ。その理由は「八木オーナーの馬でもう一回GIに使いたいんや」。
タガノの冠号で知られる八木良司オーナーは、これまで東スポ杯3歳S(当時)勝ち馬タガノテイオーや、大阪杯勝ち馬タガノマイバッハなど、活躍馬を数多く所有してきたが、頂にはまだ届いていない。GIに対する特別な思い。それを雄弁に物語る“ある物”を、松田博師はオーナーの自宅で目にしている。
「GIを勝った時のためなんだろうな。まだ何もかかっていない、優勝レイを飾るための軸が用意してあったんや。あれを見てしまったら何とかせな、と思うわな」
トレーナーの必勝の思いに応え、見事GIに向けての勝負駆けをモノにし、エリザベス女王杯にエントリーしてきたタガノエトワール。実績でいえばメンバーの中で下位にランクされるが、名伯楽が旧知のオーナーの悲願のため“最後の仕上げ”を施してくるのだから何やら不気味だ。昨年の秋華賞では0秒2差3着に健闘したタガノエトワールこそ最大の穴馬になるとみて、坂路野郎はひそかに狙っている次第である。
(栗東の坂路野郎・高岡功)