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競馬予想詐欺に思う

  • 2016年01月16日(土) 12時00分


 嫌なニュースがあった。「競馬記者装い予想情報」「被害30億円か」といった見出しで、「競馬予想詐欺」のニュースが、新聞やネット、テレビなどで報じられたのは1月14日のことだった。

「高い確率で当たる競馬の予想を教える」などと偽り、情報料の名目で金をだまし取ったとして、14日、41歳の情報提供会社社長(千葉県市川市)ら25歳から68歳の男女計13人が詐欺容疑で逮捕された。

 被疑者らは、情報を入手する手段も意思もないのに、実績のある元競馬専門紙記者が予想しているように装うなどしていた。

 過去10年間で全国の延べ4万人から約30億円をだまし取った疑いがある。嘘の的中実績を示し、外れたら「監修する人が交通事故に遭い、十分な予想ができなかった」などと説明していたという。

 30億円。被疑者のグループがだまし取った額としても、競馬ファンが馬券購入以外に遣った額としても、大金である。

「競馬予想詐欺」をしている個人やグループはほかにもいるはずだから、これからも同様のニュースが流れるだろう。

 それは、膿を出してクリーンにしていくプロセスでのことだから仕方がない、と見ることもできる。

 しかし、世間の受けとめ方というのは案外単純だから、「またギャンブル関連のダーティーなニュースだ」→「ギャンブルというのはダーティーだ」→「ギャンブルをする人は悪い人だ」となっていきかねない。

 マイナスのイメージというのは、プラスのそれよりずっと強い力で人の心をとらえる。

 あまりこういうことがつづくと、「私は競馬が好きです」と堂々とは言いづらくなる、という人も出てくるのではないか。

 今でも、例えば、入社試験やお見合いの場などで、「私は競馬が大好きです」と言うのはあまりよくないのかもしれないが、競馬をギャンブルではなくしたら産業として立ち行かなくなることは、明治から大正にかけての馬券禁止時代が示している。

 (日本の)競馬はギャンブルでありつづけることによってこそ存続する。

 ギャンブルである限り、当たる人と外れる人が出てくる。

 当てるためにいろいろな情報を得ようと、新聞代より高額な金を払う人も出てくる。

 基本的に言論と報道は自由なので、玉石混淆の情報がファンの周囲にあふれ、悪質な「石」に高い金を払ってしまう人も出てくる。

 となると、だます人間も、だまされる人も現れないようにするのは不可能なのかもしれないが、ゼロを目指す努力はつづけてほしいと思う。

 その努力をすべきは警察か、主催者か、メディアか、それらすべてか。

 たくさんの人が、少しでも多くの金を馬券に注ぎ込むことによって、賞金が高くなって、世界中から名血と名手が集まり、競技のレベルも上がり、コースもスタンドも綺麗になる。つまり、クリーンになる。若いファンも多くなって、明るいイメージになる……のだが、元に戻って、その原資は、ダーティーなイメージをゼロにすることが難しいギャンブルの売上げという、矛盾というか、難しさを孕んでいる。それが資本主義国の競馬である、と言ってしまっていいと思う。

 それにしても、10年で30億円か。仮に私が過去10年で同額の情報料を得ていたとしたら、それに見合う情報を会員に提供できただろうか。競馬場とトレセンで取材する頻度を高めるため、また、集めた情報を分析して買い目に割り振るために複数の人を雇い、事務所を借り、データ蓄積のシステムを構築し……となっていただろうから、結局、既存の新聞社のレース課や、競馬ポータルサイトなどがやっているのと同じことをしていたと思う。エンタテインメント性が不要なぶん、ほかに金を遣うことができた……いや、会員をつのるため、サイトにタレントのインタビューや、名馬物語などの読み物を掲載したりと、ますます同じことをしていただけだと思う。

 去年、我が軍(読売巨人軍)にいた3人の投手が野球賭博に関与し、契約を解除された問題が起きたときも、

 ――我が軍にも、ギャンブルにとっても痛いニュースだな。

 と悲しくなった。

 禁止するから地下に潜って陰湿化する……というのは、ヌード写真などと同じだ。大人の遊びは、どこかで線を引いてルールを明確にし、社会的に認知されてこそ、産業としてたくさんの人を食わせるだけの力を持つようになる。

 であるから、私は、プロ野球にも、サッカーの「toto」のような、国に認められたくじがあってもいいと思っている。

 抽象的な言い方になるが、競馬予想詐欺の問題にしても、野球賭博の問題にしても、根底には「ギャンブル」の認識のされかたの、日本独特の曖昧さがあるような気がする。

 ギャンブルはギャンブルだ。ロマンがあってもなくても、とにかく、金が増えたり減ったりするから面白い。それ以上でも、それ以下でもない。

 やらない人はやらなければいいし、白眼視したければ、すればいい。

 と言うと、開き直りすぎか。

 ひとつ確かなのは、私はこれからもギャンブルをつづける、ということだ。

 さあ、京成杯と日経新春杯の予想でもしよう。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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