予測された通りの平均ペース
年齢表記が変わってまだ1ヶ月も経っていないこの時期。7歳馬といっても十分に若い馬もいるが、別定のAJCC(GII)を7歳馬が勝ったのは、2010年のネヴァブション、08年エアシェイディ、06年シルクフェイマス、03年マグナーテン。さらには伝説の1970年スピードシンボリに続き、56回にも及ぶ長い歴史の中で今年の
ディサイファが6頭目。とくに近年は、生産頭数減によりベテランが現役を続けるケースが多くなっているが、7歳以上馬同士の1-2着独占は、2010年の「7歳ネヴァブション=8歳シャドウゲイト」、2008年の「7歳エアシェイディ=7歳トウショウナイト」に続いて、今年が3回目のことだった。
ディサイファ(父ディープインパクト)の馬主はH.H.シェイク・モハメド。所有馬の牝系ファミリーは世界の名牝系であることが珍しくない。ディサイファの3代母グレイスフルタッチ(1978。父ヒズマジェスティ)は、有馬記念を2連覇したグラスワンダーの祖母でもあり、ディサイファの5代母にあたるソアリング(父スワップス)は、名繁殖牝馬の誉れ高いバラード(種牡馬デヴィルズバッグの母。種牡馬シングスピール、グランドオペラ、ラーイ、ダノンシャンティ、ヴィルシーナなどもこの牝系)の祖母として知られている。さらに、今回2着した7歳
スーパームーン(父ブライアンズタイム)の牝系もまったく同じだった。スーパームーンの3代母はバラード(父エルバジェ)。5代母がソアリング(1960。父スワップス)である。
同じ7歳馬同士のワン・ツーを達成した「ディサイファ、スーパームーン」の2頭は、さすがに近親馬になるほどは近くないものの、ともにファミリーテーブルの同じ場所に連なる同牝系の出身だったのである。
勝ちタイムの2分12秒0は、2005年、クラフトワークの年のレースレコード「2分11秒4」に次ぐ史上2位の時計だが、ハロン平均はぴったり「12秒00」。1ハロン短い2000mなら「2分00秒0」。200m長い2400mなら「2分24秒0」に相当する非常に分かりやすい、あまりにも標準的なタイムか。予測された通りの平均ペースで、「60秒8-(12秒0)-59秒2」のバランスだった。
勝ったディサイファは、これでGII-GIII重賞【4-2-2-3】となり、GIは【0-0-0-3】。7歳馬ながら、「本当に強くなっている。まだこれから良くなる」と陣営は考え、この春は、「ドバイ国際競走」「香港・クイーンエリザベス2世C」を展望する。近年のパターンだと、ドバイの国際招待レースは名乗りを上げる馬が非常に多いため、殿下の所有馬だからといって、GI「12、15、8」着では、レースランクを守るために選から漏れる危険もあるが、もともと前向きな陣営はかなり強気である。果たして国際GI競走で勝ち負けに持ち込めるまでパワーアップしたのかどうか、楽観派、シビアグループの見解は分かれるだろう。
C.ルメール騎手のスーパームーンは、高速レースではなく、このレースのように全体に少し時計を要するタフな芝コンディション向き。2000-2500mのGII-GIII重賞【0-1-1-2】となった。ディサイファと同様、まだまだ能力発揮に陰りはなく、しぶとさ・粘り強さに期待していいが、かなり勝ちみに遅い死角がある。勝機が訪れるのは少しタイムのかかる芝でのハンデ戦か。
注目の人気馬、年齢が変わって4歳春の
サトノラーゼン(父ディープインパクト)は直線に向いて急に失速、10着(1秒0差)に沈んでしまった。どの馬にとってもレースを運びやすいハロン12秒0平均のラップがつづいた流れを考えると、案外の内容すぎたかもしれない。直前の好追い切りから仕上がりに心配はなかったが、プラス6キロの「466」キロの体は、スッキリ見せたと同時に、日本ダービー2着馬、菊花賞5着馬とすると、もともとコンパクトな身体つきは承知で、ヒイキ目にみてさえ小さく映った。これで、新馬を含む3カ月以上の休み明け【0-0-2-2】。あまりポン駆けの利く馬ではないとはいえ、今回の体はたくましく成長中の4歳馬のそれではなかった点が気になる。もっと暖かくなってからだろうか。
5歳
ショウナンバッハ(父ステイゴールド)の小差3着、メンバー中NO.1の上がり34秒5は立派。1600万下を勝ったばかりで強気に挑戦したジャパンCを0秒5差に押し上げた期待馬だけのことはあった。まだこれから大きく変わってくる。一方、同馬主の実力馬8歳
ショウナンマイティ(父マンハッタンカフェ)は、骨折、それに伴う脚部難で20カ月ぶりの出走。大事に入念に仕上げてきたが、残念ながら脚が持たなかった。復活を願って20ヶ月も関わったスタッフも、ファンもこういう競走中止は一番切ない。さすがにもう、時間は待ってくれない。
伏兵人気の
ライズトゥフェイム(父ゼンノロブロイ)は、前回が追い込み切れずに脚を余した印象もあったから、同じ後方でも最後方ではなく、心もち前めにつけたのは作戦通りだろう。ところが、道中かかってしまった。前半1000m通過は、先頭の
スズカディヴィアスで「60秒8」の平均ペース。前回の中山金杯は大きく離して先頭の
マイネルフロストでさえ「63秒2」。ライズトゥフェイム自身の1000m通過にしてみると、似たような距離なのに、前回とは4秒前後は異なった。これに対応できなかった。
そのマイネルフロスト。予想通り、今回は他馬が平均ラップで行ってくれたから、控える作戦は正解だったが、残念ながらマイネルフロストにはまだ追い比べを制する鋭さは備わっていなかった。