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研修生の坂路調教

  • 2016年02月03日(水) 18時00分
吉沢ステーブルでの坂路調教

吉沢ステーブルでの坂路調教


実際に2歳馬に騎乗してみると、研修生にとっては戸惑うことが多いという

 正月が明けて二週目の1月13日(水)より、BTC軽種馬育成調教技術者養成研修第33期生たちが、JRA日高育成牧場にてJRA育成馬の坂路調教にチャレンジしている。

 昨秋、研修生たちは研修を兼ねて初期馴致からJRA育成馬に携わっていたが、今回は普段訓練で乗りなれている乗用馬とはまた違った若馬に騎乗し、より実戦的な訓練を行うのが目的である。日高育成牧場に在厩しているJRA育成馬は現在59頭。「基本的な調教を辛抱強く繰り返して、できるだけ癖を付けないように仕上げて行く」のがJRA育成馬の基本スタンスである。そのため、昨春から騎乗し始めたキャリアの浅い研修生でも、何とか乗れるように調教が進められている。「最終的には、トレセンのどの厩舎に行くことになるのかがまったく分からないので、いわゆる“名人”でなければ乗りこなせないような馬にならないよう心がけている」という。

 第33期生は現在17名が在籍しており、3班に分かれて週替わりでJRA日高育成牧場に通う。1班は5名〜6名。馬装をして、まず育成馬厩舎に隣接する800mダートコースをキャンターで周回し、その後、500mほど南にあるBTC坂路コースまで職員に交じって隊列を組み、常歩で移動する。

 BTC坂路は全長1000mのウッドチップコースだが、JRA日高育成牧場の厩舎から坂路の出発点までは、1.5キロほどの距離があり、常歩の往復だけでかなりの運動量になる。牡牝に分かれてそれぞれ10頭〜12頭ほどがひとつのグループを作り、縦列で出発点に向かう。

 BTC坂路は、民間の育成牧場と共同使用になっており、時間帯によっては、かなりのラッシュになることがある。タイムもまちまちで、民間の育成牧場の中には、もうハロン13秒台で駈け上がって来る育成馬もいるが、JRA育成馬の場合はそこまで時計は出していない。「まだ基礎体力づくりとフォームに重点を置いている」ためで、基本はハロン18秒前後、縦列での走行である。

 JRA育成馬が坂路に入るのは、原則として火曜日と金曜日。タイムをそれほど出さない代わりに、きっちりと2本ずつメニューをこなす。3頭〜5頭が縦列で等間隔を守り、まっすぐ駈け上がるのがJRA育成馬の坂路調教である。

 研修生たちは、まだ技術的に不安があるので、3頭の場合には真ん中、4頭の場合には2番目か3番目というように、必ず前後に職員の乗る育成馬に挟まれて騎乗する。併走の場合には馬が「かかってしまって」馬が暴走したりする恐れがあるので、坂路を駆け上がるまで、縦列をきっちり守るよう指導されている。

坂路調教

一列縦隊で駈けあがってくるJRA育成馬



 実際に2歳馬に騎乗してみると、研修生にとっては戸惑うことが多いという。昨年12月9日付の当コラムで紹介させて頂いた小竹将貴君(23歳)も「育成馬はハミ受けもすごく敏感で反応が良すぎるので、ちょっとの失敗も許されないような難しさを感じますね。普段乗っている訓練馬とは違う部分が大きくて、刺激が大きいです」とのこと。

 因みに小竹君は1月に溶連菌感染症に罹り、訓練を一週間休むアクシデントに見舞われたそうだが、その後は何とか回復し、マスクをして元気に騎乗している。ついでながら記すと、彼はすでに就職先も決まっており、今春からはBTC近郊の民間育成牧場に勤務することになる。
小竹将貴君

今春からはBTC近郊の民間育成牧場に勤務することになった小竹将貴君



 軽種馬育成調教養成研修は1年間の訓練期間で「ある程度のレベルまで騎乗技術を身につける」ことが大きな目標であり、春から秋までの半年間を訓練馬に騎乗して基礎をみっちり学んだ後は、このJRA育成馬での調教が、いわば「応用編」として重要な位置を占める。デビュー前の若馬に騎乗する(できる)のはひじょうに大きな経験と自信につながる。何より2歳馬は「生きた教材」になるからである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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