さらに成長すれば2000m級も
4歳牡馬
モーニン(父ヘニーヒューズ)の、ダートでは「史上最速7戦目。デビューして史上最短約9ヶ月」でのGI制覇だった。
同じダート1600mの9R「ヒヤシンスS(3歳オープン)」が1分35秒4、3Rの3歳未勝利戦で1分35秒7(レッドゲルニカはダートの大物)が記録されるほど時計の速いコンディションだった。予測された通りとはいえ、1分34秒0は大変なコースレコードである。
武蔵野Sの回顧で「締まったダートなら、本番での連続快走も可能。ヘニーヒューズ産駒はもう早熟性とは一線を画す広がりをみせている。モーニンにはダート巧者にありがちな体の硬さがなく、弾むようなバネがある」と誉めた気がするが、今回はさらに進化していた。素晴らしい。
アジアエクスプレス、ケイアイレオーネなどの活躍で日本に輸入されたヘニーヒューズ(父ヘネシー。その父ストームキャット)は大変な人気で、その初年度産駒は現在1歳(15年生まれ。血統登録された産駒127頭)。産駒は2017年デビューとなる。
レースの流れは前半「34秒1-46秒1-58秒4-」。後半は「47秒9-35秒6」=1分34秒0。もちろん予測通りの厳しい流れだが、締まったダートではもっと高速の記録もあり、全体レベルの高かった今年とすると、暴ペースというほどではない。
勝ったモーニンはもまれない外枠とあって、前半は先行争いには加わらず、途中から順位を上げる進出で自身の前後半バランスは推定「46秒6-47秒4」=1分34秒0。先行タイプのスピード型とすると、理想形に近いバランスだった。粘り込んだのではなく、ゴール前1ハロンの地点でライバルを突き放すように伸びた。もともと行く一手型ではないが、差し馬のように明確に追っての味を示したのは、今回が初めてである。ミスタープロスペクターのクロスを持つ母に、ストームキャット系のヘニーヒューズ。たしかにスピード色の濃い配合ではあるが、これからさらに成長してくれると、2000m級も楽にこなしてくれるかもしれない。
モーニンの牝系は、日本で知られるところでは、桜花賞2着のロンドンブリッジ(その産駒ダイワエルシエーロはオークス馬)の4代母イヴニングベル(1945。父エイトサーティ)は、モーニンの6代母でもある。ケタ違いにタフだったユキノサンロイヤルを送った輸入牝馬マイアミガルチ(父ガルチ)など、この一族の輸入牝馬はほかにも多い。
M.デムーロ騎手は、この日、再三の出遅れなどで人気馬を飛ばし続け、【1-0-2-7】。1勝はフェブラリーSだった。前日の土曜日は京都で【1-4-0-4】。1勝は京都牝馬S。その前の日曜日も【1-4-1-2】。勝ったのは京都記念だけ。意識的であるわけもなく、たまたまのことだろうが、デムーロ・ファンを泣かせつづけて、メインで喜ばせる。運気の流れも大切な味方にしないとむずかしいのがジョッキーの成績なのだろう。この日、10場重賞制覇を目ざして小倉に遠征した蛯名正義騎手は【3-0-2-3】。朝から絶好調だったが、午前中に勝ちすぎたのが良くなかったか、肝心のメインのマイネルフロストは1番人気で10着だった。だれにも思い当たるフシがあるように、実は、馬券にもそういうところがある。デムーロを見習いたい。
ノンコノユメはよく2着まで届いた、アスカノロマンは中距離ならトップグループ
関東馬として17年ぶりに1番人気に支持された
ノンコノユメ(父トワイ二ング)は、2着に負けはしたが、万全の仕上げで素晴らしい状態だった。返し馬のフットワークは弾み、とても最軽量454キロには映らず、キラキラ光っていた。直線残りあと1ハロン、入着も危ないような位置から猛然と伸びている。よくあそこから伸びたものである。心配だった「全体の流れがきつく、なおかつ猛烈に時計が速いレース」に対する死角が出てしまったのだろう。
直線に向いてなかなかエンジンがかからないように映ったが、暴ペースではないから、全体に速い流れの中でみんながスパート態勢に入ったのが直線の入り口。残り800mから「12秒3-11秒9-11秒6-12秒1」である。反応が鈍いように見えたのはたしかだが、大半の馬が鋭く再加速していたからである。加藤征弘調教師以下、負けたノンコノユメ陣営には慰めにもならないだろうが、あれでよく届いたものだと驚嘆したい。
芝でも苦しいが、ダートの差し一手型の抱える大きな死角は、「相手に存分に力を出させてしまう」こと。とくに流れが速く、かつ全体時計が速いとどうしようもないことが多い。どうしようもないレースで、ノンコノユメは1分34秒2で突っ込んだのである。
3着
アスカノロマン(父アグネスデジタル)は、高速のマイル戦をこんな時計で乗り切れるとは思えないタイプで、実際、1600mは未勝利時代の芝の1戦だけだった。いま本格化したばかりの5歳牡馬、1800-2000mならもうトップグループに突入だろう。上がり34秒台を記録したのは、ノンコノユメとこの馬だけだった。
間隔を空けてこそ能力全開の
ベストウォーリア(父マジェスティックウォーリアは今春から日本で種牡馬スタート)は、今回もまだもう少し脚があったのではないか…と思わせるようなゴール前で、これでフェブラリーS「13着、3着、4着」。昨年が0秒2差。今年も0秒2差で、1分34秒2の最速タイム。惜しいところで馬場オーナー、石坂正調教師の「1着、2着」独占はならなかった。2-3カ月間を空けると全能力を発揮する不思議な馬で、陣営のレース選択と仕上げは大変だと思われる。持てる能力は出し切っている。
5着
ロワジャルダン(父キングカメハメハ)は、残り1ハロンでは「勝ったか」と思える好内容の小差5着。ここまで1700m以上の平均ペースのレース経験しかなく、1600m以下に出走は初めてだった。アスカノロマンと同様、この上昇ぶりなら1800-2000m級のトップクラスであり、流れに慣れた次回は、母方はマイラー系なので1600mも大丈夫だろう。
3連覇のかかっていた
コパノリッキー(父ゴールドアリュール)は、内枠、快速系ではない死角をカバーするため、好位のインでレースの流れに乗ったが、追い比べで伸びなかった。今回はマイルの自己最高タイムを「1秒4」も短縮する1分34秒6で乗り切っての完敗だから、レース前からささやかれた通り、時計の速い1600m向きではなかったのである。陣営はさっそく、5月の「かしわ記念(船橋)」での巻き返しを表明している。かしわ記念なら大丈夫、1分34-35秒台の時計を求められる心配はない。
現在とちょっとしか違わない旧コースで「1分33秒3」の驚異のレコードを持つクロフネ産駒の牝馬
ホワイトフーガは、素晴らしい状態での挑戦。中団のインで折り合ったが、4歳牝馬でこういう男馬との対戦は初めて。距離の1600mも初めて。結果、勝ち負けには加われなかったが、人気のコパノリッキーとはわずか0秒3差。6歳牝馬サンビスタ(父スズカマンボ)は、キャリアを生かし2回目の挑戦となったチャンピオンズCを制したが、4歳牝馬ホワイトフーガがここを勝っていたら、それはもう化け物級であり、GII時代に勝ったホクトベガは、あのとき6歳だった。したがって、ホワイトフーガは凡走したわけではない。