▲大好きなミュージシャンと岩田騎手からもらった、大切な言葉とは?
毎年3月は新人騎手のデビューの時。特に今年は女性騎手の誕生で、例年以上に大きな注目を集めています。しかし、新たな仲間を迎えるということは、ライバルが増えるという意味でもあります。横一戦でデビューしてからは、誰ひとりとして同じ道を歩むことのない世界。生き残っていくためにどんな道を選び、どんな決断をするかは自分次第。今週は柴田未崎騎手の後半をお届けします。「騎手復帰」「栗東移籍」という大きな決断をした未崎騎手。いろいろな経験をした未崎騎手が得た、人生の教訓とは。(取材:東奈緒美)
(前回のつづき)
無駄なことはひとつもない
東 未崎騎手の表情からも、生き生きされているのが伝わってくるのですが、改めて、「騎手復帰」「栗東移籍」を決断して良かったですか?
未崎 はい。成績面はなかなか厳しくて、乗り鞍も思ったようには増えてないですけど、それでも騎手としての生活がすごく充実してます。いろいろと悩みましたが、決断して良かったですね。
東 お兄さんの大知さんにご相談することもあるんですか?
未崎 大知とはあまり話をしないんですよ。というのも、彼も自分の仕事に集中しているようなので、あまり機会がないんですよね。
▲未崎騎手が騎手試験に再合格した際に兄弟で記念撮影 (左)大知騎手(右)未崎騎手 (撮影:佐々木祥恵)
ここまでいろいろと経験してきましたが、振り返ると、無駄なことって何もないんですよね。3年間助手の仕事をしたことも、無駄ではなかった。馬のことで知らないことが多すぎましたもんね。馬の手入れをしたり、治療に立ち合ったり、馬を扱うことの原点に戻れたといいますか。
東 困難な道こそ、遠回りでも何かの役に立ってるんですね。
未崎 その人に必要なこととして、用意されてるんだろうなって思います。だから、出来ることを一生懸命やった方がいいです。実は助手の時に、調教師試験を受けたことがあるんです。
東 そうだったんですか?!
未崎 受けたのは1回だけなんですけど、その時に勉強したことは大きかったです。朝の仕事が終わって、眠いのを我慢して勉強してたんです。その時はしんどかったんですけど、その後に受けた騎手試験に、調教師試験で出るような問題が出たんです。試験自体はすごく難しくて、正直よく受かったなっていうのはあるんですけど、たとえギリギリだったとしても、受かったということが大きいですからね。
岩田騎手の言葉にもドキッと
東 成績としては、JRA通算100勝が見えてきましたね。
未崎 年間で100勝する人もいる中で、あまり自慢できる話じゃないですけど。でも、100勝するまで頑張りたいなとは思います。そのためにも、今年の目標は1つでも多く勝つこと。復帰して3年目になりますので、今年は頑張らないといけないなと思ってます。あとは、楽しんでレースに乗るというとことですね。
東 「楽しんで」がポイントですか?
未崎 そこがキーワードだと思います。楽しく乗っていれば、結果も出て来ると思います。外国人騎手も入って来て、騎手全体のレベルが上がっているのは感じますし、実際のレースもすごくタイトになって厳しいのですが、気持ちで負けないようにはしてるつもりです。
僕、ONE OK ROCKが好きでコンサートにも2回行ったんですけど、ボーカルのTakaさんが『どんなことでも自分を信じて頑張れば絶対にできるから。自分たちもそういう気持ちでここまで来たんだ』って言ってたんですね。その言葉がすごく好きなんです。努力し続ければ必ず夢は叶う。だから僕も、まだまだ頑張らなきゃいけないと思っています。
東 騎手の世界って、周りはみんなライバルで、1人で戦って行かなきゃいけないプレッシャーがあるのかなって思います。
未崎 騎手は、すごく孤独だと思います。騎手同士仲はいいですし、話もたくさんしますけど、やっぱり最後は自分ですからね。この前岩田さんに、いい話を教えてもらったんです。
僕が梅田厩舎を手伝っていて、岩田さんもレッツゴードンキの調教をしていて、たまたま厩舎で一緒になったんですけど、その時に『辛い事ばっかりじゃないんだからな』『“辛”いという字に一本足してみろ。“幸”せになるだろ』って。岩田さん、たまにはいいこと言うんだなってね(笑)。
東 イメージからすると、たしかにちょっと意外です(笑)。でも、いいお話ですね。岩田騎手も調教の拠点をしばらく美浦に移すということで、何かお話はされたんですか?
▲「イメージからすると、たしかにちょっと意外です(笑)。でも、いいお話ですね」
未崎 一緒に調教に乗る機会があって、その時に「1か月くらい行ってくるわ」って。それ以上のことは聞かなかったですが、何かを変えたいのかなとは感じました。トップの人はトップの人で、大変だと思います。勝って当たり前って思われますからね。そこは岩田さんにしかわからないものがあるんだろうなって思います。そういえばこの前、岩田さんにすごい飲まされまして…(笑)。
東 岩田さん、お酒強そうですね。
未崎 あの人、すごく強いですよ。1月に騎手を引退した花田くんの送別会だったんですけど、もう大変で。それから会う度に「また行くぞ!」なんて言われて。誘ってもらうのはうれしいんですけど、なんせ岩田さんはよく飲むのでね。「もういいです、もういいです」って逃げてます(笑)。
東 この企画、ちょうど未崎騎手の次に花田さんに出ていただくんです。花田さんはデビューして丸5年で引退という道を選ばれました。
未崎 まだ若いですもんね。それだけにもったいないなって、僕は思ってしまったんですけどね。一度、「平地が難しければ、障害という道だってあるよ」という話をしたことがあって。それで障害練習をしてみたそうなんですが、「自分には向いていないと思います」って。
障害は平地以上に危険ですし、その怖さもわかりますから、あまり強くは勧めなかったんですけど。それでも、花田くんが決めた道ですからね。その決断には相当な覚悟がいったと思います。今は助手さんとして忙しそうで、あまり話す機会がないんですが、応援していたいですね。
(次回のゲストは、文中にも登場した花田大昂元騎手です)
【掲載スケジュール】■柴田未崎騎手(3月7日14日の全2回)
1977年6月18日生まれ。「花の12期生」として1996年にデビュー。2011年3月31日に一度は騎手を引退し、美浦・斎藤誠厩舎で助手となる。13年に騎手試験に再び合格。14年3月に騎手復帰。その後、所属を栗東に変更。
■花田大昂元騎手(3月21日28日の全2回)
1990年1月1日生まれ。競馬学校27期生として2011年にデビュー。同期は藤懸貴志、森一馬ら。16年1月31日をもって騎手引退。JRA通算676戦11勝。現在は栗東・吉田直弘厩舎の調教助手。