(前回のつづき)
白毛と芦毛は真逆、恐らく対極にある
日本で初めて白毛と認定されたハクタイユー。ハクタイユーの生まれた河野岩雄さんの牧場がある北海道浦河町で獣医師をしていた猪木淑郎さんは、生まれて間もないハクタイユーの姿を偶然に撮影していた。
「仕事に行こうと河野さんの牧場を通ったら、あれっ? おかしい! 白地にところに茶色が入っていて、牛みたいなのがいるぞと(笑)。牧場の人も『こんなの生まれちゃったんだけど、どうしよう』とか言っていました。それでたまたま写真を撮っていたんです。日本軽種馬登録協会で毛色をどうするのかと、議論になったようです」(猪木先生)
▲日本で初めて白毛と認定されたハクタイユー(撮影:猪木淑郎)
猪木先生は現在、インターアクションホースマンスクールで講師をしている。そしてスクールには、ハクタイユーの白毛を受け継いできた白毛の馬たちが在籍していた。その1頭が、前回登場したハクホウクン(セン22)だ。
「僕が柳田清さんと最初にお会いした時に、運命的な出会いというのはあるのだなと思いました」(猪木先生)
ハクタイユーの息子で白毛のハクホウクンのオーナー、(株)ヤナギスポーツの代表だったのが、柳田清さんだ。
「柳田さんは、種子島に白毛牧場を作ろうという構想を持っていたこともあるんですよ。それくらい白毛には愛情を持っていたんですね」と猪木先生が話せば、「(柳田)社長は本当に白毛愛が強くて、生きていらっしゃったら、僕の百倍は白毛について喋ってくれたと思いますよ」と(インターアクションホースマンスクールの教務主任)腰越先生も口を揃える。
ハクホウクンが種牡馬として白毛の血を遺せたのも、このオーナーがいたからこそかもしれない。
「柳田社長がすごいのは、栗毛の牝馬に白毛の種付けしたというところです。ハクタイユーの写真を見ても、白地に栗毛の色が入っていますからね。
白毛と芦毛の決定的な違いは、皮膚の色なんです。白毛は皮膚の色がピンクですが、芦毛は黒です。だから白毛と芦毛は真逆。恐らく対極にあると思います。運動した後の白毛は体がピンクになりますしね。あとは目が違います。白毛の目の色はグレーですから。実は栗毛の皮膚の色もピンクです。
だから、白毛は栗毛に近いのだと思いますね」
▲下述のハクバノイデンシ(白毛)の2015は栗毛に生まれた
血統表を改めて眺めてみると、ハクホウクンの産駒で白毛のハクバノデンセツ(セン12)、ハクバノイデンシ(牝11)の母フラッシュリリーは栗毛だ。ハクホウクンの母のウインドアポロッサの毛色も栗毛。さらにはハクバノイデンシが産み落とした白毛のミスハクホウ、ハクバノイデンシ2014の父アドマイヤジャパンも栗毛というように、白毛と栗毛の組み合わせは、白毛を輩出する可能性が極めて高いのだ。
日本初の白毛馬ハクタイユーが生まれて間もない頃に写真に収め、二十数年という時を経てその血を引くハクホウクンやハクバノデンセツ、ハクバノイデンシなどの白毛の馬がいる場所で講師をしている猪木先生は、「本当に僕は白毛とは縁がありますね」と感慨深げにつぶやいた。
▲37年前に撮影された貴重な写真、「本当に僕は白毛とは縁がありますね」と猪木獣医師(撮影:猪木淑郎)
白毛の遺伝子よ、永遠なれ
ハクタイユーから続く白毛遺伝子を受け継ぐべく、ハクバノイデンシが母として白毛の産駒を出産している。
「競走馬を引退して最初の2、3年はここで乗馬の調教をして、競技会にも出ました。その後に白毛を生産したいというオーナーの希望で、北海道で種付けをして、2頭は向こうで生まれました」(腰越先生)
▲白毛遺伝子を受け継ぐべく、母となったハクバノイデンシ
2012年生まれの初子ミスハクホウ(牝4)は白毛。現在は南関東で走っている。2着、3着と好走歴はあるのだが、まだ勝利を手にしていない。
「イデンシは昨年、北海道から再びこちらに戻ってきました。北海道で生まれた白毛のハクバノイデンシの2014(牡2)も一緒でした。この馬は競走馬にとは思っているんですけどね。戻ってきた時にお腹にいたハクバノイデンシの2015(牡1)はこちらで昨年の5月に出産したのですが、残念ながら白毛ではなく栗毛だったんですよね。とても可愛いですよ。ただ競走馬になるには、もう少し覇気がほしいかなと思います(笑)」
こうして牝馬のハクバノイデンシが白毛の遺伝子を継ぐことになったために、その兄ハクバノデンセツは去勢手術が施された。
「でも気性的には相変わらずうるさくて、セン馬になってもあまり変わらないんですよ。ただ牝馬を見て騒がなくなったので、その点は良かったですけどね」(腰越先生)
だがハクバノデンセツは、ただうるさいだけではない。わりと高い障害を飛越することができるのだ。
「生徒の練習には良いですね。コースを回って来る場合は110cmの高さの障害ですけど、1つだけ飛ぶのだったら130cmは飛びますよ。試合にもボチボチ行く予定です。馬格もあって、ゆったり大きな駈歩をしますし、乗り心地は外国の馬っぽいんですよね。乗り難しいところがあって、自分でも手に負えないなと感じることもありますけど。ただ乗馬の方に進みたいという生徒が増えてくれば、今後も活躍の場は増えるでしょう」(腰越先生)
▲高い障害もこなすハクバノデンセツ「活躍の場は増えるでしょう」と腰越教務主任
日本で初めての白毛馬ハクタイユーの当歳時の写真を偶然撮影した猪木獣医が勤務し、ハクタイユーの血を受け継ぐ白毛馬たちが複数いるインターアクションホースマンスクール。
「ウチのスタッフ以外に、こんなに白毛と関わっている人間もいないでしょうね。僕は多分、日本で一番白毛馬に乗っていると思いますよ(笑)」
明るく笑う腰越先生は、取材が終わった午後にはハクバノデンセツに跨って障害を飛越する生徒たちを、熱く指導していた。ハクバノデンセツも、生徒を背に時折反抗しながらも、白い馬体を躍らせて、軽やかに障害を飛越していた。
37年前に突然変異によって、この世に生を受けた白毛のハクタイユー。この先も、ハクタイユーの白毛の遺伝子が細々とでも受け継がれていくことを願いたい。(了)
※見学希望の方は、事前にお問い合せください。
インターアクションホースマンスクール
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