今回は少々深い『太論』。ベテランジョッキーならではの葛藤に迫ります
今回は、ユーザーからの質問をきっかけに、少々深い『太論』を。「この答えでは納得してくれへんのかもしれんけど…」と逡巡しながらも、ジョッキーとしての率直な意見を語ってくれました。また、レース中の競走馬の異変についても、持論を展開。ベテランジョッキーならではの葛藤に迫ります。
(取材・文/不破由妃子)
競馬は予測ができんからギャンブル
──少し前のレースについての質問なんですが、「2月27日阪神9Rのデムーロ騎手(ショウボート・1番人気)の騎乗について、騎手ならではの見解をお願いします。2番枠からスタートして控え、スローペースを抜け出せずまったく追わずに終了しました(10着)。馬券を買ってる側が納得がいかないのは騎手の方たちもわかっているとは思いますが、騎手目線で考えた場合、あの騎乗は仕方ない感じですか? 確かに馬群に突っ込むのは危険ですしね。スローペースのインにいたらタイミングよく前が空かない限り仕方ないですか?」というものです。
小牧 あれは行くところがなかったからでしょう。それは仕方がない。そういうときもあるっていうことやねん。行き場がないときもあんねん。
──ミルコもレース後、「今日は内枠で何もできなかった」とコメントしていますね。
小牧 スローペースになると囲まれるから、出られへんことも多いし、一方でうまいこと前が開くこともある。まぁ僕が「そういうこともある」って答えたところで、質問してくれた人は納得せえへんのかもしれないけど…。
──内枠から外に持ち出すのもリスクがありますしね。馬のタイプにもよるのでしょうが、他の馬の出方や流れにも左右されるでしょうし、何が正しかったのかは結果論でしかない。
小牧 そうやね。そういうこともあんねんとしか言えんなぁ。内を狙ったけど開かないこともあれば、いつもはポンと先行できる馬が出遅れることもある。みんな1着を目指して乗ってるんやけど、予測ができんからギャンブルなわけで。
──予想する側とすれば、人気馬が内枠に入った、スローペースになりそうだと読んだ時点で、閉じ込められる可能性を考えて、その馬を切ることもありますからね。もちろん、それでもアッサリ抜けてきてしまうケースも多々ありますが。
小牧 そうそう。レースも馬も生き物やからね。それにしても、ミルコはあれだけの技術を持ってるのに、なんで真っ直ぐ乗ってこないんやろ。そっちのほうが気になるわ。
──確かに。続いては、「2月27日の新馬戦(阪神4R)に出走したカーラーグルの話を聞かせてほしいです。馬は残念なことになりましたが、レース前の感触はどういったものだったのでしょうか?」というものです。
小牧 レース前はまったく何ともなかった。走ると思ってたし、むしろ勝てると思って乗ってた。でも、4コーナーを回ってすぐにアカンと思って止めました。変に力が入ってしまったんやろうね。結局、トモ脚を複雑骨折して…。
──早めに追うのを止めていましたよね。
小牧 これまでの経験から、僕はアカンと思ったらすぐに止めるようにしてる。若い頃から、何度も何度もひっくり返った経験があるから。馬は本当にかわいそうやったけど、二次的な事故を防ぐためにも、アカンと思ったら止めることが必要やと改めて思った。
──異常を察知する感覚は、それこそ経験で磨かれていくものですよね。
小牧 うん。赤木くんともよう話すんやけど、若い頃は、ベテランのジョッキーが怖がる馬でもへっちゃらで乗っとった。その怖さがわからへんかったから。だから、ベテランになるほど怖がりになんねん。怖がりになるイコール、経験をむっちゃ積んでいるから、競走馬の異変については予測できてしまう。
──だいぶ前ですが、異常を感じて競馬を止めたら、結局何でもなくて、それによって制裁を受けた例がありました。それはちょっと違うんじゃないかと思った記憶があります。
小牧 そうそう、それは悪いことじゃないのに。結果、何でもなければ、それが一番なわけやし。
──この前のクリノバトゥーラ(2月10日・笠松10R・落馬競走中止)のお話もそうですが、ジョッキーって時に辛いお仕事ですよね。
小牧 そうやね。でも、それを引きずってしまうようなら、この仕事はできん。だから僕は、落馬シーンをなるべく見んようにしてる。頭のなかにイメージが残ってしまうのが怖いからね。クリノもそうやけど、今でも思い出すのがカノヤザクラ(2010年、アイビスサマーダッシュで故障)。ゴール板手前で故障して、僕はすぐに飛び降りたんやけど、僕のあとをずっとついてきてね…。つらかったなぁ。
僕はすぐに飛び降りたんやけど、僕のあとをずっとついてきてね…。つらかったなぁ