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netkeiba

見ること博ければ迷わず

  • 2016年05月26日(木) 12時00分


他を完全に圧倒していたシンハライト

 近頃は耳にしなくなったが、こんな古言が頭に浮んだ。「見ること博(ひろ)ければ迷わず。聴くこと聡(さと)ければ惑わず」と。こちらが謙虚であれば、思わぬ知恵が与えられるもの、一人より二人と衆知を集めて歩む方がいいと言うことだが、聞くことでより適確な判断ができることはわかる。だが、状況を俯瞰(ふかん)して何かを察知しなければ、行動を起こせないこともある。大きく物事をつかむ、それには俯瞰することが肝心ということ。それができれば、大事を成し遂げられる。

 状況を俯瞰して人より先にきちんとした指示を出せれば、これは大きな力となるのだが、一頭の馬が成熟するとき、この俯瞰する状況を見てとれるのだ。状況に応じた戦い方が、自在にできる、それが完成した姿こそがチャンピオンで、そう呼べるまでの道のりは険しい。オークスが終り、3歳牝馬の春の戦いは区切りがついた。チューリップ賞、桜花賞、オークスと牝馬の王道を歩んだシンハライトが頂点に立ったが、桜花賞で早目に抜け出してゴール寸前でハナ交わされた池添騎手の無念を晴らしたのがオークスの勝利だった。

 スタートがそれほどうまくいかず、後方に位置し、それでも2枠3番という好枠を生かすことに専念。これは、ロスのない競馬をという強い意志で腹をくくっての戦い方だった。直ぐ外に、終始相手となるチェッキーノがいたが、状況から見れば、チェッキーノの方が後半のスムーズな競馬を予感させた。だが、十二分に馬を信頼していた池添騎手は動じることなく、シンハライトの脚力を信じていた。それに加えて、負けるわけにはいかないという執念が強かった。4角でもその位置から動かず、ひたすら前が開くのを待つだけ。開きさえすれば、瞬時に抜け出せる。そこにあるのは、人間の強い思いだけだった。ここぞというその時、ためらうことなく動き、これに接触したデンコウアンジュが立ち上がるシーンがあったが、現時点での強さでは他を完全に圧倒していた。

 適確な判断と勝利への強い思いでかち得た春のタイトルだったが、秋に向って、レースを俯瞰して戦う力がつくかどうか、小柄な牝馬の今後の成長を楽しみにしたい。さらなる大事を成し遂げるために。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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