平坦ではなかったここまでの戦い
自分のことを他人が評価する。ほめられたり、けなされたり、無視されたり、そうかと思えばびっくりするほどの評価を受けたりと、実にさまざまだ。その度に、心を暗くしたり、うれしくなったりするのが世の習い。どう受け取るかの自問自答をすることで、次の一歩を踏み出す、結局、そこに行きつくのではないか。自らに問いつつ、自ら答えを出す、これは決して容易ではないが、やらねばならないと決心することで、力がわき、知恵もわいてくる。
こうした自問自答の末の勝利、それを安田記念のロゴタイプの復活に見ることが出来た。父ローエングリンが4回も挑戦して勝てなかったレースを、GI3勝目で射止めたと言ってしまえば簡単だが、ここまでの戦いはそんなに平坦ではなかった。朝日杯FSを勝って2歳チャンピオンになったのが4年前、それからスプリングS、皐月賞と勝ち進んだが、それ以後がさっぱり。さすがは2歳王者、速くて強い馬が一冠目を制したと言われてから、実に3年1カ月22日ぶりでのGI勝利だった。
田中剛調教師は以前から、「賢くて競馬場に着いてレースが近づくとスイッチが入る」と、いつも細心の注意を払ってきた。これまで海外遠征も経験し、勝てないまでも素養の片りんはのぞかせてきた。だが勝たないことには影は薄くなる一方で、GI2勝馬が安田記念で8番人気と、評価を下げていた。ほめられたり、けなされたり、無視されたりと、心が暗くなることが続く中にも、鍛えることを怠らず、ここにきてスランプから完全に脱出したと判断を下すまでにきていた。ここまでの自問自答は、かなりあったであろう。以前よりも背腰やトモがしっかりしてきたことで、今回は2週続けて負荷をかけて追い切ることができ、直前は田辺騎手で息を整えるていど、いかにもゆとりが感じられていた。これは、いざレースというときに有効で、勝負師田辺騎手にとり戦いやすかったろう。
一方のモーリスは、どういう状況であろうとも評価は下がることはなく、香港から帰国後、輸入検疫1週間、東京競馬場に移ってからの着地検査3週間と、ずっと一頭だけの日々が続いていたにも拘らず、常に期待の方が大きかった。次は、モーリスが自問自答で勝利をつかむ番だ。