◆南関東では制限を必要以上に設けるべきではない
8日の東京ダービーは、驚きの結果だった。驚いたというより、むしろ不意打ちをくらったという感じかもしれない。
中央ダート2勝から転入初戦のバルダッサーレが勝ったというだけでなく、7馬身差の圧勝。3コーナー過ぎでタービランスに並びかけていったときの手ごたえからしてまったく違ったもので、南関東で実績を積んできた馬たちを、まさに子供扱いというレースぶりだった。
とはいえ走破タイムを見ると仕方ないとも思える。バルダッサーレの勝ちタイム2分6秒9(良)は例年と較べて標準的なタイムといえるが、14番人気で2着に入ったプレイザゲームが2分8秒3。「勝ち馬がいなかったら…」という仮定は成り立つものではないが、それが勝ちタイムになったとしたら相当に遅い。過去10年の勝ちタイムを見ても、昨年のラッキープリンス、2006年のビービートルネードがともに2分7秒5で、もっとも遅いタイムだからだ。
逃げたディーズプリモが速かった。先行争いにはならず単独で逃げたため見た目にはそれほど速くは感じなかったが、最初の3F通過が34秒6。短距離戦かというようなペースだ。ちなみに昨年、一昨年の優駿スプリントの前半3Fのタイムが、それぞれ34秒7、34秒4だから、3歳1200mの重賞と同じようなペース。4F目からペースが落ち着いて13秒台のラップが続くが、1000m通過は61秒0。この時期の3歳馬の2000m戦ということを考えるとかなり速い。それゆえ後半の1000mが65秒9と、極端に前半に偏ったレースだった。
3番手を追走したのがタービランスで、3F通過のあたりで先頭から5〜6馬身ほども離れていたから、その通過タイムが推定で35秒5〜6くらい。これが逃げ馬だったとしても、やや速いか平均的なペースだ。
レース後、バルダッサーレの吉原寛人騎手が、「1コーナーで一番最後くらい(実際には後方から2番手)になってヤバイなと思った」と話していたが、むしろそのくらいの位置取りがいいペースだった。実際、ブービー人気で2着に入ったプレイザゲームも1コーナーを後方から4番手で回り、4コーナーでもまだ後方4番手で、最後の直線で使える脚が残っていた。
吉原騎手がうまくペースを読んだともいえるし、バルダッサーレがもともとスタートダッシュがいい馬ではないので、その脚質がうまくハマったともいえる。
今年の南関東のこの世代は、羽田盃の勝ちタイムも過去10年でもっとも遅かったように、世代レベルは高くはない。そこに転入してきた中央2勝馬バルダッサーレの能力が高く、さらに展開がハマった結果が7馬身差楽勝となった、というのが今年の東京ダービーだったように思う。
さて、ここからが本題。今年の東京ダービーには、羽田盃、東京湾カップだけでなく、牝馬の東京プリンセス賞まで上位馬がもれなく顔を揃え、「さあ、3歳世代のチャンピオンはどの馬だろう」という期待が例年以上に高まっていたように思う。そこに、あらぬ方向から飛んできたトンビにエサをさらわれてしまったのだから、がっかりしたファンや関係者も少なくなかったようだ。
たしかに以前は、大井の重賞には中央からの転入馬が初戦として出走することはできず、2010年に東京ダービーを勝った中央デビューのマカニビスティーは、羽田盃の前に4月5日のチューリップ特別(大井)を勝って、羽田盃は2着に敗れたものの、見事に目標としていた東京ダービーを制したということがあった。
その当時、南関東の中でも中央からの転入初戦で重賞に出走できなかったのは大井だけ。故・川島正行調教師が、「なんで大井だけ(転入初戦馬が)重賞に出れねぇんだ」とグチを言っていたことを思い出す。川島正行厩舎には、中央の古馬オープンから転入してくる馬も少なくなかったため、理不尽に感じていたのだろう。
しかしその後、他3場と同じように大井でも転入初戦から重賞に出走可能となり、2012年の東京ダービーでは、兵庫チャンピオンシップ3着のあと大井に移籍したプーラヴィーダが2着に入った。この時の勝ち馬がプレティオラスで、サンシャイン牧場(馬主名義は同牧場を所有する伊達家)によるワンツー。そして今年のバルダッサーレもサンシャイン牧場の生産所有馬だった。
たしかに地方競馬には中央からの転入馬に出走制限を設ける主催者も少なくないが、賞金的にも中央と互角に戦えるレベルが期待される南関東では、個人的にはそうした制限は必要以上に設けるべきではないと考える。
むしろ今年の南関東のレベルなら中央2勝馬でも勝負になるだろうと考えて(実際にそういう判断だったのかどうかはわからないが)移籍させた馬主の判断は賞賛されていい。もし転厩させて力が足りなかったり、地方のダートが合わなかったりで勝つことができなければ、中央に戻ることができないというリスクを負った上での賭けなのだから。