◆主戦の酒井「追い切りの反応の仕方が違ってきている。今回は…」
話はトーホウジャッカルが菊花賞を制した一昨年の秋にさかのぼる。祝勝会であいさつに立った担当の佃キュウ務員は「来年は海外に挑戦できればと思っています」と世界制覇の夢を語った。その言葉に周りは拍手喝采。「この馬なら凱旋門賞でもやってくれるんじゃないか」という期待感に満ちあふれていた。
あのころのトーホウジャッカルには、それだけの強さと勢いがあった。デビュー149日目での史上最速の菊花賞制覇は、従来のレースレコードを1秒7も上回る超速タイム3分01秒0で走破という驚がくの内容。当時、古馬長距離路線でトップを張っていたゴールドシップの調教パートナーである北村助手が、菊花賞翌週、谷キュウ舎の関係者をつかまえて「来年の春、天皇賞で勝負やな」と“ライバル指名”したのも、トーホウジャッカルの強さを認めたがゆえだった。
実際、菊花賞の2、3着馬サウンズオブアース、ゴールドアクターの後の古馬GI戦線での活躍を考えれば、その「見立て」は間違ってはいなかったはずだ。
坂路野郎が見る限り、あの衝撃の菊花賞後、トーホウジャッカルが順調にレースを使えたことはただの一度もない。菊花賞以来初めて、叩き2戦目を無事に使えた前走の天皇賞・春(5着)にしても、直前の追い切りで動きが“劣化”してしまい、主戦の酒井のトーンは明らかに落ちていた。そもそも休み明けの阪神大賞典(7着)への調整過程自体が至極順調とは言いがたいものだったのだから、その反動は避けられないし、大きな上積みなど望めるわけもない。
しかし、この中間は明らかに気配が違ってきている。2週前追い切り(8日)の時点で久々に坂路でラスト1ハロン12.5秒(4ハロン53.1秒)を刻んだことに驚いていたら、翌週の1週前追い切り(16日)ではラスト12.1秒(4ハロン53.4秒)…菊花賞当時の最終追い切りで見せたあの“11.9秒の衝撃の脚”に近づいてきているではないか。
「久々にしっかりやれているし、追い切りの反応の仕方が違ってきている。今回は自信を持って“いい”と言えますね。馬のデキに関しては100%だった菊花賞に近いものがある」とは主戦の酒井。
おそらく、この上昇カーブの描き方なら、春天時のように直前の追い切りで気配が落ちることはあるまい。菊花賞以来初めて、満足のいく状態でトーホウジャッカルがレースに出走してくる…これだけでワクワクしてくるではないか。
ドゥラメンテを筆頭に強豪が揃う今年の宝塚記念だが、ポテンシャルでは一歩もヒケを取らないはずのトーホウジャッカルの“本気走り”を久々に堪能したいと思っている。
(栗東の坂路野郎・高岡功)