活躍を期待された馬メイショウテンシャ/吉田竜作マル秘週報
◆愛らしい見た目とは裏腹に、「普段の性格はちょっときついところがあった」
メイショウベルーガの2番子となるメイショウテンシャ(牡=父ディープインパクト・池添兼)が先月24日、栗東に入キュウした。
メイショウベルーガといえば芦毛で、体形は丸っこく、優しそうな顔立ち。まるでぬいぐるみのようなたたずまいなのに、強豪牡馬相手にGIIを2勝(2010年日経新春杯、京都大賞典)。その風貌からは想像もつかない末脚を繰り出すことでファンの多い馬だった。
そんな愛らしい見た目とは裏腹に、「普段の性格はちょっときついところがあった」と振り返るのは池添兼調教師。恐らくあれだけの豪脚を発揮できたのは「きつい性格」が原動力にもなっていたのだろう。
ただし、母親に立場を変えると、「きつい性格」は厄介なものになる。「初子のメイショウジーター(牡=父ダイワメジャー)の時はベルーガの子育てがあまりうまくなくてね。そういうのも(現在、未勝利の成績に)影響しているのかなとも思う」(池添兼調教師)
サラブレッドは我々のような“外野”が思っている以上に多くの人馬に影響を受ける。子馬時代は放牧中に同年代の馬たちとじゃれ合い、離乳、馴致、集団調教と育成のレベルが上がるにつれて人との付き合い方も濃密になっていく。こうした過程で他馬に対しての付き合い方や人間との距離感が形成されていくわけだが…。それでも根本に大きく影響を与えるのはやはり母馬との離乳までの短い時間なのだろう。
14年の桜花賞を勝ち、凱旋門賞にも挑戦したハープスターの母ヒストリックスターにも、この手の話がある。ヒストリックスターは自らの子供に対して非常に神経質だった影響で、ハープスターの2つ上の兄ピュアソウルも神経質な性格だったそうだ。イレ込みやすいと、普段のカイバ食いや調教にも少なからず影響を及ぼすもの。ピュアソウルの馬体がなかなか大きくならなかったのも決して無関係ではあるまい。このピュアソウルとハープスターの間の牝馬も子育てがうまくいかず、競走馬にはなれなかったという。
対してハープスターには生まれてすぐ乳母があてがわれたことで「穏やかな性格に育ったんじゃないか」とは管理していた松田博元調教師。
ではメイショウテンシャの性格はどう出たのか? 記者が馬房に来ても、気にせず延々と干し草を頬張り続ける姿に、「かわいい馬ですね」と声をかけたところ、担当の土屋助手の返事よりも早く、メイショウテンシャがこちらに視線を向けてきた。牧場時代から「かわいい」と言われ続けてきたからこその反応の早さだろうか。
「ちやほやされて育ったせいか、ちょっとわがままなところはありますけど、よく手を掛けてもらった感じはしますよね。基本的にはおとなしいですよ」と土屋助手も“育ちの良さ”を感じているようだ。
牧場で母子を見てきた池添兼調教師は兄メイショウジーターとメイショウテンシャの違いは、母メイショウベルーガの成長にあると考えている。
「最初の年はどうなることかと思ったけど、この馬のことは本当にかわいがっていてね。母親として子育てが上手になった。それが大きいんだと思う」
現在、メイショウテンシャはゲート試験に備えて練習中。「まだ胴が詰まっていて、これから伸びそうな感じもする。焦って使う必要はないと思います」(土屋助手)
ご存じの方もいるかと思うが、土屋助手といえば清水出キュウ舎時代にアイポッパーを手がけ、現在もヤマカツエースを担当する“腕利き”。母メイショウベルーガ、そして土屋助手の愛情を一身に受けて育っていくのだから…メイショウテンシャの活躍は約束されていると言えようか。この芦毛馬、覚えておいて損はない。