▲セレクトセール2016で里見治氏は13頭を13億2700万円で購入 写真はサトノダイヤモンド全弟「マルペンサの2016」
7月中、北海道のせり市場から景気の良い話が相次いで入ってきた。11、12日のセレクトセール(日本競走馬協会主催)は、売却総額が前年を13.4%上回る149億4210万円(税抜き、以下同)で、あわや 150億円の大台に届くかという史上最高額。1週後の19日に行われた日高軽種馬農協(HBA)のセレクションセール(1歳)は、売却総額23億3880万円、売却率73.5%ともに史上最高だった。
セレクトセールは毎年、「ここが天井では」と思わせて、翌年に軽々と天井を突き破るパターンを繰り返してきた。ただ、上場馬の主体が社台グループの投入する高額馬。数年前までは「あそこだけは別」という冷めた見方もあった。だが、近年は不況が叫ばれていた日高地区の市場でも、好業績が続く。国内競走馬流通は市場中心に変わりつつあるのか?
経済政策が業績を下支え
セレクトセールは1998年の創設以来、他の市場とは比較にならない存在だった。名うての大手馬主に加え、毎年のように海外の有力馬主や新興富裕層が参入。「不況知らず」のイメージが定着しているが、近年の統計を見ても、景気の影響から自由ではなかった。
現在の施行スタイルは初日が1歳、2日目に当歳で、上場頭数は各240頭前後。この形が定着したのは2010年からだが、同年は合計の上場頭数が422頭と少なめだったとは言え、売却総額は65億円をわずかに下回った。今回は当時の実に2.3倍である。思い起こせば、10年はリーマンショック(08年9月)の後遺症とユーロ危機の渦中で、日本経済は円高株安の基調が続いていた。株長者が多いセレクトセールの顧客にとって最悪の状況だった。
12年末に発足した安倍晋三政権の経済政策は、詰まるところ「異次元」金融緩和と米国の黙認下の円安誘導によるバブル創出策であり、最大の受益者は間違いなく富裕層。セレクトセールの近年の実績は、政策効果の証明かも知れない。
効果が極に達した昨年は、せり初日時点で1ドル123円台。日経平均株価が19779円83銭。15年の売却総額は131億円で10年の2倍を超えた。せり初日は1ドル約89円で日経平均が9548円。連動していた。
▲主なせり市場の成績(売却総額、平均価格は単位万円)
“ブレグジット(英国のEU離脱)”より“ディープ効果”
ところが、今回は事情が違った。6月23日に英国のEU離脱の可否を問う国民投票で離脱派が勝ち、世界の金融市場を衝撃波が襲った。前年とは逆の円高株安の流れとなり、せり直前は1ドル100円台、7月8日の日経平均は終値が15106円98銭。前年までの資産効果を帳消しにしかねない状況だった。日本競走馬協会の吉田照哉会長代行もせり終了後、「影響を心配していた」と正直に話した。
悪条件をはね返した原動力は、ディープインパクトの威光だ。今春の3歳クラシック4戦で3勝。牡馬2冠では同じ3頭が3着までを独占し、牝馬路線ではシンハライトが桜花賞でハナ差2着の後、オークスを制覇。オークス3着にもビッシュが入った。既に今季の種付け料は3000万円と父サンデーサイレンスの全盛期に型を並べたが、実績でも父の域に近づきつつある。
産駒の活躍は購買に直結し、今回は上場35頭(1歳20、当歳15)中、当歳の2頭を除いてすべて売却。売却総額は41億6400万円、平均売却価格は約1億2618万円だから開いた口が塞がらない。33頭中半数近い16頭は1億円以上で、市場全体の1億円馬も23頭と前年より8頭多い史上最多である。
購入側では、当歳で最高価格(2億8000万円)の2頭をそろって落札した里見治氏(セガサミーHD会長)が、全体でも13頭を13億2700万円で購入し、存在感を示した。最高価格の1頭「マルペンサの2016」は、ダービー惜敗のサトノダイヤモンドの全弟で、「直前に見た印象が良く、勢いで行ってしまった」と里見氏。もう1頭の最高価格馬「イルーシヴウェーヴの2016」(牡)の争奪戦では、欧州最大の馬主、クールモアに競り勝った。
▲里見治氏が欧州最大の馬主クールモアに競り勝って購入した「イルーシヴウェーヴの2016」
今回、クールモアは高額が予想された当歳馬を購入する動きを見せ、注目を集めたが、結果は購買ゼロ。日本勢の勢いに圧倒された。それでも、外国勢は今回、1歳16頭、当歳2頭を購入。