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実馬を見ないと分からなかった ヴァナヘイムの“本性”/吉田竜作マル秘週報

  • 2016年08月17日(水) 18時00分


◆ダイナカール〜エアグルーヴと連なる名牝系は

 お盆のころを過ぎても暑さが和らぐと実感できなくなったのはいつからだろうか。栗東の朝晩は20度ほどに下がるのでまだ過ごしやすいが、現在住んでいる西宮、先週出張に行った小倉などは、深夜になっても蒸し蒸しとして、夏の終わりがまったく見えてこない。そんな中でも、競馬の暦は淡々と進んでいくもので、秋の気配を感じようが感じまいが、この時期は有力2歳馬が続々と顔を見せるようになる。

 一番驚かされたのはアドミラブル(牡=父ディープインパクト、母スカーレット・音無)の入キュウ。無事なら重賞の一つや二つは勝っていたであろう逸材だった全兄タブレット(2勝)は脚元や体質が弱く、デビューしたのが暮れの阪神開催、全姉イサベル(4勝)に至っては3月のデビュー。おくてのイメージが定着した血統だけに、この馬もゆっくり調整されるものだと思っていた。

「オーナー(近藤英子氏)が入れろと言うから」と音無調教師にははぐらかされたが、ゲート練習に付き添う生野助手の話からは、いい意味でこの血統らしからぬ様子が伝わってきた。

「乗り味はいいですね。軽いというよりはパワフルな感じ。結構しっかりしているんですよ。ゲートもうまいこと運んでくれそうです」

 ひ弱さや幼さを感じさせないのは調教を進めていく上でかなり重要なポイント。このあたりを牧場、オーナーサイドが見極め、この時期の入キュウとなったのだろう。実際、馬房にアドミラブルを見に行ったところ、一心不乱にカイバをむさぼる姿が印象的。これならこの後のトレーニングにも耐えられるのではないか。

 秋の阪神開催を待たない良血馬もいる。角居キュウ舎のヴァナヘイム(牡=父キングカメハメハ、母グルヴェイグ)は28日の小倉芝1800メートル新馬戦から投入する可能性が高くなった。ダイナカール〜エアグルーヴと連なる名牝系は気性の激しさがもろ刃の剣。母グルヴェイグもレースではそういうところを見せていただけに、記者は気性が何より気になったが、“普段の様子”を知る前川助手が持つ印象はまったく違うものだった。

「お母さんもキュウ舎にいる時はおとなしくて、うるさい印象はなかったんですよ。ヴァナヘイムにしてもお母さんに似ておとなしいし、能力も感じる。今のところ不安もなく、順調に乗り込めていますよ」

 そういえば祖母エアグルーヴもキュウ舎では優しい目をしたおしとやかな女性だった。個人的にはPOGでの指名を「気性の激しさ」を理由に見送ってしまったのだが、このあたりは“実馬”を見ないと分からないものだ。

 すでに調教の動きで猛アピールしている良血馬もいる。大久保キュウ舎のデリスモア(牝=父ワークフォース、母アルティマトゥーレ)は4日に楽な手応えで坂路4ハロン53.1-12.8秒をマーク。この時は「前と後ろに古馬を置いて、デリスモアが動かなかったら、抜かせて古馬同士の併せ馬にする」ケースも想定した追い切りだったそうだが、「そのまま古馬に食らい付いていけたし、チップをかぶっても平然としていた。真面目だし、いい根性をしているよ」と高野助手は絶賛。11日には52.9-12.6秒とさらに時計を詰めたことで、デビューは阪神開幕週(9月10日)の芝内1400メートル(牝)、鞍上もミルコ・デムーロに決まった。

 目指すは芝短距離重賞2勝(計7勝)の母アルティマトゥーレが取れなかったGIタイトルで、「もちろんスピードはあるけど、乗った感じはそこまで短い距離向きという感じでもない。楽しみになってきた」と高野助手は腕をぶす。

 大物2歳馬の動向から秋の気配を感じつつ、熱帯夜を乗り切ってもらえれば幸いだ。

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