レーヌミノル ダビスタ流調教にも涼しい顔/吉田竜作マル秘週報
◆競馬ファン層の拡大に貢献した「ダービースタリオン」
競馬ブームはスターホースの存在抜きには語れない。記者が生まれてすぐに起きたハイセイコーブームに、昭和から平成を股にかけて活躍したオグリキャップ、最近ではディープインパクト。さらには100戦以上して未勝利というハルウララのような世相を反映した馬も出現した。
一方で競馬ファン層、特に若年層の拡大に貢献したものとして、家庭用ゲームソフト「ダービースタリオン」を挙げることができよう。ユーザーが思うような血統を配合し、思うように調教し、好きな騎手を選んで、好きなレースに使う。自慢の一頭を持ちよって、友人たちと競い合った経験がある方も多いのではないか。ペーパーオーナーゲーム(POG)自体はこれよりも前から存在していたが、マニアックなところから日の当たるところに出てこられたのも、ダビスタの貢献が大きかったように思う。
ただし、このダビスタには“功”もあれば“罪”もある。罪の一つは「調教というものを“勘違い”させてしまった」ことだろう。ゲームの中での追い切りは、現実のJRAの競馬に則して「水曜、木曜」。おそらく製作者は「どちらかを選択して追い切る」ことを前提にしていたのだろうが、そこはゲームの世界。ユーザーは馬のキャラクターの奥にある「パラメーター」を上げるべく、水曜も木曜も追い切ることを選択し、いつしかそれが“当たり前”になってしまったのだ。一時期はダビスタから競馬に入ったとおぼしきファンが「調教はもっとこうした方がいい」といった電話や投書をキュウ舎にしてくることすらあったらしい。
もちろん、ゲームの世界と現実の競馬はまったく違うもの。馬の体調や機嫌はデジタルで測れるものではなく、そこには人の感性や愛情、技術が必要となってくる。これだけはAIがどれだけ進化しても決して変わらないのではないか。
ただし、ごくまれに、この“ダビスタ流”に近いことが現実に起こりうる。GIII小倉2歳S(9月4日=小倉芝1200メートル)の有力馬レーヌミノルは先週水曜(24日)のウッド追いが想定以上に軽くなってしまったため(5ハロン73・4-11・8秒)、管理する本田調教師は「翌日も追い切りを」と指示。木曜(25日)に坂路で4ハロン53・2-12・1秒と再び抜群の伸びを披露してみせた。
2日連続の時計を、それもまだ体力のつききっていない2歳牝馬がマークしたとなると、やはりその影響が気になる。木曜午後の投票所で古川助手を直撃すると…。
「追い切った後の雰囲気は悪くなかったし、テンションが上がった感じもしない。もともとカイバ食いが良くて、キュウ舎でも手のかからない馬なんだよね」と、“この程度の誤差は問題ない”と言わんばかり。「距離はもっとあっていいくらいで、行っても、行かなくても競馬はできる。とにかく能力を感じさせる馬なので、来年につながるレースをしてほしい」と先々の大舞台を意識した発言で締めくくった。
レーヌミノルが2日連続の時計マークという“ダビスタ流”を難なくクリアした証しとなる勝利を手にしようものなら…新たな物語がまた一つ始まるかもしれない。