◆「逃げ馬」が去った後のこの一戦
春のスプリント王決定戦・高松宮記念のレース後、検量室裏で、ローレルベローチェ(16着)の手綱を取った中井を、ティーハーフ(6着)騎乗の池添が慰めているシーンを目撃した。
「他の邪魔をしなければ、自分がどこを通ろうと問題ない。極端な話、外ラチ沿いを回ってきてもいいんだから」(池添)
レースを改めて振り返ると、積極果敢に逃げた中井のローレルベローチェは道中、内ラチ沿いを走っていたが、4角で馬場のいいところを通ろうとして6-7頭分外に持ち出す競馬を展開。このコース取りにレース後、ライバル陣営の関係者から厳しい声が上がった。それを見ていた池添が、落ち込む後輩を励ましたというわけだ。
その関係者こそが2着ミッキーアイルを管理する音無調教師だった。
「あれで制裁が何もないのはおかしいと思ったんだ。(勝った)ビッグアーサーは不利を受けていないけど、ウチのは前の馬に半馬身ほど体が入っていたから、あの馬が外に持ち出してきた時に、完全に体勢を崩して外に振られてしまっている。あの不利は痛かったよ。(ミッキーアイルに騎乗した)松山も相当怒っていたんだから」
外に振られるロスが響いたのは確かだろう。が、よくよく振り返れば、スプリントGI挑戦、香港スプリントも入れれば計4走で、広義の意味では“不利”を受け続けてきたのがこのミッキーアイル。過去7勝全てが「逃げ切り」(逃げて勝てなかったのは3歳で挑戦した不良馬場の安田記念16着だけ)という明確な勝ちパターンがあるのに、スプリントGIの宿命か、より速い同型に常に先手を奪われ、控えざるを得ない“不利な競馬”を余儀なくされてきた。
「今回はビッグアーサーがいることよりも、他に速い逃げ馬がいないことのほうが大きいですね。逃げた時は大抵結果が出ているんで」とは担当の平井助手。因縁のローレルベローチェの不在はもちろん、アンバルブライベン、ハクサンムーンといった「逃げ馬」が去った後のこの一戦は、得意のパターンに持ち込める可能性が極めて高い。
あとは仕上がり。正直、1週前追い切りの動きはやや物足りなく映ったが、「休み明けはいつもこんな感じ。気がいい馬だから間が空いても関係ないし、当週はさらに良くなると思います」(平井助手)。
ディープインパクト産駒初のスプリントGI制覇をミッキーアイルがついに成し遂げるのか。最終追い切りのチェックは怠れない。(栗東の坂路野郎・高岡功)