
▲ダービージョッキーとなった兄弟子(右)と初重賞制覇を遂げた弟弟子(左)の物語
互いに支え合い切磋琢磨している兄弟弟子が地方・名古屋競馬場にいる。大畑雅章騎手(32)と木之前葵騎手(23)。錦見勇夫厩舎所属の二人は、カツゲキキトキトの主戦騎手だ。カツゲキキトキトでダービージョッキーとなった兄弟子と初重賞制覇を遂げた弟弟子、そして2人をなんとか一人前の騎手に、と願う師匠の思いに迫った。(取材・文・写真:大恵陽子)
錦見厩舎じゃなければ、ここまでこれなかった
今年3月17日。名古屋大賞典の1つ前のレースで木之前葵騎手が初重賞制覇を遂げた。地元3歳馬による重賞で、雪のため延期されていた新春ペガサスカップ。相棒はカツゲキキトキトという牡馬だった。
喜びに満ちた勝利騎手インタビューで木之前騎手はこう話した。
「前走は8馬身差で重賞を勝った馬で、騎乗した大畑騎手からは『次はお前が乗るんだぞ』って言われていました。自分はどうなるんだろうと思っていました」
実力馬への期待と、1番人気のプレッシャーを感じながらのレースだった。

▲兄弟子からのバトンを受けて挑んだ新春ペガサスカップを見事勝利
圧勝の前走で大畑騎手に騎乗ミスがあったようにも感じられないし、他の有力馬とレースが重なったようにも感じない。なぜ新春ペガサスカップでは乗り替りとなったのか。
「相手関係などを見て、(木之前)葵に乗せるか大畑に乗せるか決めています」と、カツゲキキトキトを管理する錦見調教師は話す。二人は錦見厩舎の所属騎手だ。
新春ペガサスカップ以降も大畑騎手と木之前騎手はほぼ交互に騎乗し重賞5連勝を果たした。5連勝目には大畑騎手騎乗で東海ダービーを勝利。デビュー15年目でダービージョッキーとなった感想を大畑騎手はこう話す。
「東海ダービーは本当は葵でもよかったところ、(錦見)先生が『(ダービーを勝つ)順番が違う。大畑が先だ』って言ったんです。ダービージョッキーになって、色々変わりましたね。周りから言われると、まだちょっと恥ずかしいです」
そんな弟子の大畑騎手について錦見師はこう話す。
「もうリーディングをとってもいいくらいの時期にきているから、なんとかとれんかな、と思っています。コース取りとかがもう一歩。上手に乗る時もあるんだけど、レースにいって人がいいところが出ているんです」
大畑騎手は、現在トップの丸野勝虎騎手から離された2位(東海地区=名古屋・笠松)。厚い壁をなんとか乗り越えて欲しい、と師匠は願っている。

▲二人の師匠・錦見勇夫調教師「(大畑騎手は)もうリーディングをとってもいいくらいの時期にきている」
目の前の壁を乗り越えてほしいと願うのはもう1人の弟子・木之前騎手に対しても同じだった。