JBC3競走が行われた川崎競馬場で48億7402万2850円という地方競馬の1日の売上げレコードが更新された11月3日、門別競馬場でもひっそりと大記録が樹立された。
ホッカイドウ競馬に所属する牝馬クラベストダンサー(佐藤英明厩舎)が第1レースに16歳6カ月20日で出走。サラブレッド系の国内最高齢出走記録を塗り替えたのだ。
従来の記録は2007年11月11日、高知競馬の牡馬オースミレパードの16歳6カ月16日。それを9年ぶりに、4日更新した。
この日のクラベストダンサーは単勝63.4倍の7番人気。冷たい雨が降るなか、ホッカイドウ競馬最高齢の井上俊彦騎手(51)を背に、自分より10歳以上若い馬たちと重馬場のダート1000mを走り切り、9頭中6着となった。
佐藤英明調教師(55)のコメントによると、これが今年最後の出走で、来年以降どうするかはオーナーとの相談になるとのこと。
これで189戦7勝。最後に勝ったのは09年6月で、収得賞金は301万3000円。
クラベストダンサーは、00年4月14日、門別・倉見牧場で生まれた。父クラカゲオー、母クラネバダンサー(母の父ネヴァーダンス)というオーナーブリーダーならではの血統だ。
2歳時の02年4月に道営札幌でデビューし、旭川や宇都宮など、廃止されて今は存在しない競馬場でも走っている。
同期には、皐月賞と日本ダービーを勝ったネオユニヴァース、牝馬三冠馬スティルインラブ、天皇賞・秋を勝ったヘヴンリーロマンスなどがいる。アドマイヤグルーヴも同い年だ。
ネオは種牡馬としてヴィクトワールピサやロジユニヴァース、アンライバルドなどのクラシックホースを送り出し、孫の世代もクラシックを勝っている。スティルインラブは繁殖牝馬として成功しなかったが、ヘヴンリーロマンスはアメリカに渡ってアウォーディーやラニなどを産み、アドマイヤグルーヴはドゥラメンテの母となった。
そんななか、今なお現役バリバリの競走馬として走っているのだ。その生き方の是非についていろいろ言いはじめると、最後は「サラブレッドはなぜ生まれてくるのか」という話になってしまうわけだが、300年以上ともに歩んできた人間たちの心を動かす、ひとつの生き方であることは間違いない。
サラブレッドの16歳6カ月は、人間で言うと50代半ばか後半ぐらいか。子供たちが社会に出て、早い人は孫が誕生して……と考えると、そんなところだろう。
人間の私は、クラベストダンサーが最高齢出走記録を更新した前日、52歳になった。
クラベストダンサーのほうが、感覚的にも、おそらく生物学的にもおネエさんだ。漢字で書くなら「お姉さん」より「お姐さん」のほうが似つかわしい。還暦が近いのに走りつづけ、若いモンを負かしてしまうのだから、スーパー姐御である。
以前は、サラブレッドの馬齢に4を掛ければ人間の年齢になると言われていたが、それは00年までの、馬齢が数え年でカウントされていたころの話だ。
それに、2歳や3歳の若駒時代と、6歳や7歳、もっと年を経て10歳を超えてからとでは、掛ける数字を変えなければ、人間の年齢と釣り合わなくなってしまう。
2歳の夏、つまり2.5歳でデビューし、3歳春に甲子園球児にたとえられるダービーを戦い、4歳秋に競走馬としてのピークを迎え、6歳一杯ぐらいなら衰えを見せない。で、ときにトウカイトリックのように、10歳になっても重賞を勝つ馬が現れる。
といったことを考えると、馬齢によって、次のように掛ける数字を変えていくと、ちょうどよくなるのではないか。
3歳までは×6
4〜6歳は×5
7〜10歳は×4
11歳以上は×3.5
これだと、馬齢2.5歳×6=15歳でデビューし、40歳になっても第一線で活躍する人がたまにいる、となって実情に合う(7歳と11歳は若返ってしまうが、目安ということで、ご容赦を)。それでもまだ、出産限界年齢とその馬齢などにズレが生じてしまうが、数年前まで軽種馬の日本最長寿記録を持っていたシンザンが35歳3か月11日まで生きた、つまり、人間だと35.25歳×3.5=123.375歳まで生きたことになるので、寿命で帳尻を合わせるとしてもこんなところだろう(シンザンの馬齢の3カ月を0.25年と計算し、11日は切り捨て)。
となると、クラベストダンサー姐さんは今、人間だと16.5歳×3.5=57.75歳ということになる。
今年57歳、つまり1959年に生まれた著名な女性というと、池上季実子、石川ひとみ、片平なぎさ、片山さつき、榊原郁恵、柴田理恵、田口ランディ、畑中葉子、原日出子、マッハ文朱、森公美子、森田美由紀、山口百恵、山下久美子、山田詠美、渡部絵美(五十音順、敬称略)などなど。なるほど、現役として走って、年下をバンバン打ち負かしても不思議ではない。
さあ、52歳男、馬齢換算すると牡14.8571428571歳も、頑張って走りつづけよう。