◆世代GI皆勤賞の底力を
以前もこんなことを当コラムで書いたかもしれない。
かつて元騎手の岡部幸雄氏が、菊花賞当日の競馬番組の解説で「3冠全てのレースに出走すること自体がすごいことなんです」と話し、ある伏兵馬をピックアップ。その馬が見事に馬券圏内に入り、好配当を演出したことがあった。その指摘に「なるほど」と感心した坂路野郎はそれ以降、成績問わずで3冠全てに参戦する馬には敬意を持ってきた。要約すると、こんな感じの話だ。
それなのに…。今年の菊花賞では、この金言をすっかり忘れてしまっていた。距離が長いとみて無印にした“3冠皆勤賞”のエアスピネルが、最後の1冠で銅メダルをゲット。道中かかりながらも、最後までバテずに脚を伸ばした姿は、まさに3冠オール出走を果たす馬の底力であった。
この3冠オール出走は何も牡馬だけが評価されるべき話ではない。いや、むしろ消長が激しいと言われる牝馬の方が、その軌跡はたたえられるべきものだろう。
「その点については本当にえらい馬だと思うよ。3冠もそうだけど、その前の2歳GI(阪神JF7着)から全ての(世代別牝馬限定)GIに出走しているんだからね。栗東トレセンの事務所、もしくは大スポから、皆勤賞のメダルをもらいたいぐらい(笑い)」
エリザベス女王杯にデンコウアンジュを出走させる佐藤助手の弁だ。
桜花賞10着、オークス9着、秋華賞9着と、牝馬3冠の結果はいずれも冴えないが、桜花賞は前が詰まるロス、オークスは勝ち馬に寄られる不利があってのもの。秋華賞にしても、3位タイとなる上がり33秒5の脚を使っており、決して悲観する内容ではなかった。
「レース後はさすがにバテるかな、と思っていたけど、そんなところも見せなかったのは大したもの。今度は外回りが舞台で直線が長くなる。この点は大きいよね」
ジュエラー、シンハライトと春のクラシックホースが次々に離脱していった中、3冠全てに出走し、いまなお疲れも見せず、古馬との牝馬頂上決戦に挑もうとするデンコウアンジュに、競馬の神様からちょっとしたプレゼントがないものかと、ちょっぴり注目している次第である。 (栗東の坂路野郎・高岡功)