トラスト“大逆転”で!!東スポ杯出走決定の舞台裏/吉田竜作マル秘週報
◆「心肺機能が出来上がっている」
ネットワーク社会は人と人、人と物との距離を近くした。遠く離れた友人ともテレビ電話で会話ができるし、インターネットを通じて海外の商品も気軽に購入できる。物流については中間業者を介すことが少なくなったことで、時間や料金をグッと圧縮できるようになった。それでもリアルに存在する“距離”は、時に事態をややこしくするし、実際に会うなり、見るなりすれば、これまでの距離のあるやりとりが滑稽に思えるほど簡単に解決することもある。
何の話題かといえば、今夏、公営・川崎所属馬としてJRAに挑戦。クローバー賞こそ2着に敗れたが、続く札幌2歳Sでは中央勢を一蹴し、重賞タイトルを手中に収めたトラストの話だ。札幌2歳S制覇直後に、岡田繁幸オーナーが発表した通り、栗東の中村キュウ舎へと転入。移籍初戦がどこになるのか注目を集めていたわけだが、先週は山の天気のように動向が二転三転した。
水曜の段階では「(19日の)東京スポーツ杯2歳Sに登録はすることになると思うが、(その翌週26日の)京都2歳Sという選択肢も出てきた」と中村調教師。それが翌木曜朝には「東スポ杯には登録もしないかも。京都2歳Sに行くことになりそう」とほぼかじが切られたかに思われたが…。この後、トラストは坂路でラスト1ハロン地点から軽く仕掛けられただけで11・9秒(4ハロン53・5秒)をマーク。坂路担当の清水記者が「ズキューンと伸びてきましたね」と評した抜群の動きに、中村調教師も動かされた。
「追い切った後に見に行っても全然息が乱れていないんだ。まだ2歳馬があれだけの調教をしてだよ。心肺機能がもう出来上がっているんだろうね。獣医は“まだ伸びる”と言ってくれてるけど」
調教終わりに「これから(オーナーに)電話をして最終的に決めることになる」との言葉を残したトレーナーに、午後の出馬投票所で確認すると「東スポ杯に決まった」。大逆転の我が社杯出走となったのだ。
サラブレッドの好調期間はそれほど長くは続かない。「できるだけいい状態のうちに」という心理は調教師だけでなく、オーナーサイドも当然、持っている。仮に北海道と栗東の距離を超えて、岡田繁幸オーナーがリアルタイムで調教を見ることができていたら…おそらくここまで決断が遅れることもなかったに違いない。百聞は一見にしかずというが、栗東入りしてからの調教を見ていれば、迷いなく“王道”東スポ杯を選択したのではないかと思う。
「オリンピックでケンブリッジ飛鳥とボルトが並んで走った時に、脚の長さは同じくらいでも、加速してからのストライドの大きさが違って、グイグイと離されたのを見て思ったんだ。回転の速さに加えて、ストライドも大いに関係あるな、と。トラストはピッチ走法気味で回転は速い。ただ現時点で、例えばマカヒキあたりと比べるとストライドが…。まだ脚が短いし、課題は身長が伸びることかな(笑い)。ただ、これから成長してくるはずだし、体形は長い距離向きだと思うので」
トラストはこれからも進化を続け、“競馬界のボルト”になれるのか。まずは東スポ杯での走りに注目してほしい。