(前編のつづき)
可愛がられて人脈を広げていくタイプではない。だから、また乗せたいと思ってもらえる騎乗をする
松田の言葉をきっかけに立ち止まり、そして開けたトップジョッキーへの道──。その間には、多くの苦悩があったはずだが、川田に「“これから自分はどうしたらいいんだろう…”と、漠然と迷った時期はありませんか?」と問うと、「ないです」と即答。立ち止まることはあっても、とにかくブレない、迷わない。これが川田の真骨頂であり、錆び付くことを知らない大きな武器なのだと思う。
「さっきも言ったように、目の前のひとつひとつのレースで精一杯でしたから、迷う暇なんてなかったです。それに、もともと目指すところはひとつですからね。僕は人付き合いが苦手で、可愛がられて人脈を広げていくタイプではない。だから、競馬で求められた以上の結果を得る、また乗せたいと思ってもらえる騎乗をする、本当にその一心でここまでやってきました。
キャリアを積むごとに理解してくれる方も増えましたが、それでもまだ僕のことが嫌いな人は多いと思います。でも、それはもうしょうがない。それが僕であり、今さら変わることはできないし、変わろうとも思っていません。でも、そのぶん競馬で結果を出す。それが僕のやり方ですから」▲「今さら変わることはできないし、変わろうとも思っていません。でも、そのぶん競馬で結果を出す。それが僕のやり方ですから」
競馬ファンのなかの川田のイメージは、「クール」「怖そう」「生意気」「目つきが鋭い」などといったところか。言動のすべてが“川田ルール”のなかで展開され、媚びることが一切ないため、敵を作りやすいのは確かである。が、こんなことを言うと「僕のイメージじゃない」と本人に怒られるかもしれないが、実際の川田は、とても心根の優しい男である。松田博資の引退当日のパドックでグッと涙をこらえる姿、時折勝利ジョッキーインタビューでもらす嗚咽などからは、人と馬への隠しきれない愛情が溢れていると筆者は思う。
自身や騎乗馬についての取材対応も、こちらの知識に合わせ、かみ砕いた表現で一生懸命に伝えてくれる。公にされるコメントはそっけないものが多いが、それも過去にコメントを歪曲され、人を傷つけてしまった経験があるだけに、誤解を招かないようにするための川田なりの防御。そのやり方が正しいかどうかは別として、不器用なりに生きる道を探ってきた結果なのである。