▲梶原さんにおねだりするツルオカオウジ
(前回のつづき)
乗馬への道は閉ざされるも、この縁は断ち切らない
メイセイオペラに魅せられた梶原晴美さんは、その産駒を追いかけ、浦和競馬で走っていたロマンテノールを引き取った。当歳の時に生産牧場で出会ったツルオカオウジも、ずっと見守ってきた。
ツルオカオウジは、2007年4月8日、北海道日高町の中原牧場で生まれた。母はダイタクヘリオスを父に持つミノンタイトル。そして父はメイセイオペラ。ツルオカオウジは、メイセイオペラの日本での最後の世代の産駒にあたる。
無事に成長をした同馬は、2009年6月大井競馬でデビュー。あの幼かった当歳っ子は、519キロという大型馬に育っていた。10着、9着とひと息の成績に終わったが、3勝目で初勝利を挙げている。その後、徐々に力をつけていったツルオカオウジは、3歳8月に重賞の黒潮盃競走に出走。ゴール前でいったん差されながら、差し返してのクビ差で接戦を制した。
オープン馬としてキャリアを重ね、4歳12月には、スマートファルコンが勝った交流GIの東京大賞典(9着)にも出走している。以降、休みを挟みながら堅実な成績を収め、2015年7月のサンタアニタトロフィー13着を最後に引退が決まった。通算成績32戦6勝。メイセイオペラの代表産駒と言っても良い活躍だった。
梶原さんはツルオカオウジの現役中に、同馬を管理する久保與造調教師の紹介により、オーナーに面会する機会を得ていた。梶原さんがパドックに出していたツルオカオウジの応援幕をオーナーが知っていたこともあり、その後も交流は続いた。そしてある日「引退した後、行方不明にならないようにしてほしい」という願いを思い切って伝えた。
オーナーも、人気もあり、頑張ってくれている馬だからと、前向きに検討することを約束してくれたという。昨年7月のサンタアニタトロフィーの後、右前脚の球節の不安により引退することになったツルオカオウジは、オーナーの知人である牧場関係者が間に入り、北海道の帯広畜産大学の馬術部で第二の馬生をスタートさせた。
しかし馬術部では障害を飛ぶ馬を希望しており、ツルオカオウジの前脚は障害飛越をするには厳しい状態だったため、残念ながら馬術部から退厩となる。障害は無理でも馬場馬術ならと、今度は北海道内の乗馬クラブへと移動したが、人が乗ると跛行してしまうほど前脚の状態は芳しくなく、乗馬への道は諦めざるをえない状況となった。
梶原さんは先に引き取ったロマンテノールのいる北海道白老町のオーシァンファームに、オウジを入厩させた。昨年の11月のことだ。2頭を1人で養っていくというのは、並大抵のことではない。けれどもここまで繋がってきたツルオカオウジとの縁を、梶原さんは断ち切るつもりはなかった。
「乗馬になるとわかった段階から、サポート会を作って資金をプールできればと考えていました。引退馬協会に相談したら、会則を作るなど準備をするようアドバイスされて、準備を進めました」
認定NPO法人引退馬協会のサポートを受けてツルオカオウジの会が発足したのは、2016年4月のことだった。
2頭一緒に、北海道の白老から茨城へ
しかし、梶原さんの暮らす東京からは、なかなか会いに行くことができない。白老は北海道の中でも雪も多くはなく、馬にとっては良い環境だということもわかっていたが、通いやすい近場に移して、なるべく頻繁に会いたいという気持ちが募っていった。
高齢になってから環境を変えるのも可哀想なので、ならば早めにと考えた梶原さんは、関東近郊で預託先を探し始めた。そして見つけたのが、茨城県かすみがうら市にある霞ヶ浦ライディングファームだった。
ツルオカオウジとロマンテノールの2頭が茨城県の地を踏んだのは、2016年9月だった。
「オーシァンファームに入った当初、脚を痛めていたオウジは、ポニーと2頭で狭いところで様子を見ていたんです。やがて大丈夫そうだということで、広い放牧地に放したら、そこにいた熟女に惚れてしまったらしく(笑)、いななくは追いかけるわで、騒ぎになってしまって(笑)、再びポニーと2頭の放牧に戻されてしまいました。そんなこともあっただけに、ここで他の馬たちと放牧地に放すのは大丈夫かなと心配でしたけど、初日からクレオちゃんが仲良くしてくれて、意外とスンナリ馴染みましたし、良かったなとホッとしています」
クレオというのはアパルーサ種の3歳の女の子で、ツルオカオウジの隣にいつも寄り添っているらしい。今回の取材時も、向かって左からロマンテノール、ツルオカオウジ、クレオの順番に並んで、仲良く草を食んでいるシーンを目撃できた。
▲向かって左からロマンテノール、ツルオカオウジ、クレオの3ショット
霞ヶ浦ライディングファームでの日常を、スタッフの男性Mさんに教えてもらった。
「だいたい朝6時半くらいから、1日6時間ほど放牧に出しています。ツルオカオウジとロマンテノールは、いつも一緒にいますよ。同じ牧場から一緒に移動してきたという安心感もあるのでしょうね。基本的に2頭とも性格は大人しいですから、他の馬をいじめるということはまずないです。逃げている場面はありますけど(笑)。放牧中はクレオという馬とも、一緒にいることが多いです」(Mさん)
Mさんの証言からも、ツルオカオウジはクレオと一緒に放牧を楽しんでいることが判明した。梶原さんはクレオを「オウジの彼女」と言っていたが、Mさんは「顔が似ているし、大きさも違うので兄妹」と表現していた。男女差もあるのかもしれないが、それぞれ感じ方が違うのもまた面白い。
午後3時前後に放牧から上がってきた馬たちは、お手入れをしてもらって馬房に戻ってご飯を食べる。これがツルオカオウジやロマンテノールをはじめとする霞ヶ浦ライディングファームの馬たちの日常だ。
▲放牧地で迎えを待つツルオカオウジ(手前)とロマンテノール(奥)
▲ツルオカオウジ、お手入れの時間
Mさんによると「最初はやっぱりビービー鳴いていましたけど、着いたその日から2頭とも飼い葉食いは良かったですよ。いきなり放牧地の群れに入っていくから、他の馬にやられちゃったりもしますけど、今は見ての通り平和にやっています」(Mさん)
特別に放牧地で撮影させてもらったが、ツルオカオウジもロマンテノールも、ほとんど人間の存在を気にとめることなく、場所を移動しながら無心に草を食んでいた。梶原さんは、その様子を飽かずに眺め、時折、2頭をカメラに収めていた。
フリーランスで働く梶原さんは、2頭のために仕事量を増やし、休日にも仕事をこなしている。そのため2頭に会えるのも月1度ほど。それでも仕事をバリバリこなせるのは、メイセイオペラの血を引くツルオカオウジとロマンテノールの存在があるからに違いない。
メイセイオペラが日本に残した2頭は今、こんなにも愛情を受けて過ごしている。メイセイオペラは22歳で天国へと旅立ってしまったが、その血を継いだ2頭には、父の分も穏やかな時間を過ごし、長生きをしてほしい。顔寄せ合って放牧地の草を頬張る姿を見つめながら、そう願わずにはいられなかった。
(了)
※ツルオカオウジは、会員の方のみ見学可となっております。ご了承ください。
ツルオカオウジの会 HP
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