初々しい初花ということば
どことなく初々しさがある初花(はつはな)ということば。古今和歌集の四季折々の歌の中に「谷風に解(と)くる氷のひまごとにうち出(い)づる波や春の初花」というのがある。春というと、今では花の咲き乱れる三月、四月を思い浮かべるが、古今集の世界は旧暦だったから、今でいえば立春のころになる。正月は新春というから、旧暦の春におきかえれば、この歌に早春の透明感がよくとらえられていることがわかる。
いずれにせよ、春の歌がこうした新春の歌から始まっているということだが、新春競馬といえば、いつも東西の金杯から始まる。まさに新春の風物詩なのだが、いっそう心が浮き立つように感じられるのも、正月だからだ。今年は、ツクバアズマオーとエアスピネルが一番人気に応えて幸先よいスタートを切った。競馬にとっても、多くが支持した馬が勝ったのだから、何よりだったというべきだろう。
中山金杯は、時折、その先に大きな栄光の道が開けることがある。ここから一年の掉尾を飾る有馬記念の舞台にとどくことがあり、そういう夢を抱ける馬の一頭にツクバアズマオーはなれたということだ。京都金杯はマイル戦だから、勝ったエアスピネルには、クラシックから解放されて明け4歳になったこの一年の目標がはっきり見えてきた。どこに真価を見い出すか、期待する現実が目の前にあるということだ。
新春競馬を勝つことの意味は、心浮き立つ思いに、この時期だからこそ強くなれるということにあるが、一方で、早春の花がそっとひらきはじめる季節だからこそ、初々しい初花ということばにぴったりなのが、フェアリーSとシンザン記念だ。明け3歳馬だから、まだどう咲くかは未知数。だからこそ、人の予知しにくい結果が待っていた。だが、フェアリーSのライジングリーズンにしろ、シンザン記念を勝ったキョウヘイにしろ、実は、大きな第一歩を踏み出したのだ。人知の及ばぬところにある夢の実現。やがてのどかな陽ざしが差すころにその蕾をふくらませるのだ。今は初々しい初花が、やがて春の主役になれるかもしれない。