◆母カワカミプリンセスの特徴を受け継ぐ
先週の当コラムで取り上げたナムラシンウチ(牡=父ゼンノロブロイ、母ナムラシゲコ・福島)は先週のウッド追いでもラスト1ハロン14秒台とバタバタ。全兄ナムラビクターも追い切りは動かない馬として有名だったが、どうやら弟も、この血統の“らしさ”を受け継いでいるようだ。
「乗っていてここまで似ている兄弟はなかなかいないと思う。追い切りでもギアが入りそうで、自分からは入れられないところとかね。だんだんピリピリして、いらんことをするようになってきたけど、その時のしぐさもビクターそっくり」とは兄にもまたがっていた福島勝助手。
「変なところは似るんだよなあ」と彼の実父でもある福島調教師は言うが、重賞(14年アンタレスS)を勝ち、GI(チャンピオンズC)で2着した全兄とそっくりというのなら、悲観することもないような…。
「似てほしくないところが似る」のは“競馬あるある”なのだが、裏を返すと似てほしいところはなかなか受け継いでくれないもの。例えば06年オークス、秋華賞の2冠を制したカワカミプリンセスの初子ミンナノプリンセス(牝5=父コマンズ)は、母が最後まで走ることがなかった距離1200メートルでデビュー。その後も短距離を主戦場にしている(現500万下)。その1つ下のミュゲプリンセス(牝=父エンパイアメーカー)は、未勝利に終わって現在は園田へ転出しているが、中央時代に連対したのはやはり1200〜1400メートルの短距離戦。どちらも馬体がコンパクトで、男勝りだった母の体格は受け継いでいない。
「ミンナノプリンセスは父親がコマンズというのもあるんだろうけど、明らかに短い距離向きだし、体高が低くてきゃしゃ。母の父キングヘイローが強く出ているのかな。あまりお母さんに似ているとは言えないね」とは母も管理してきた西浦調教師。産駒を通じてカワカミプリンセスの面影を感じられない状況が続いていたのだが…。
3番子にしてようやく母親の特徴を引き継いだ産駒が生まれた。ハルノヒダマリ(牝=父エンパイアメーカー)だ。血統は1つ上のミュゲプリンセスと同じなのだが、「もう480〜490キロくらいはある。何より馬自体がお母さんによく似ているんだ。体高があって、いかにも芝という体つき」と西浦師も目を細める。
もちろん、似ているのは見栄えだけではない。「稽古をやるごとに良くなっていくところも似ているなと思うね」。遅生まれながら一気に頂点を極めた母の成長力。それを受け継いでいるのは見た目以上に大きな要素と言えるかもしれない。
母のデビュー当時に調教をつけていた柳田助手(現在は目野キュウ舎所属)は「カワカミプリンセスも1400メートルでデビューしたくらいで、(距離の長短については)どちらに振れるかわからない感じはあったが、2走目(君子蘭賞)に追い込んで勝った時に持つと思った。スピードはもちろんあったけど、馬体に窮屈なところはなかったし、乗っていて距離の不安を感じたことはなかったよ」と証言してくれた。
スピード色の強い血統ながら、母自体に距離の不安がなく、その特徴を受け継いでいるとなれば…。現3歳牝馬は強豪揃いとはいえ、期待をかけたくなる。
何といっても母は6月生まれ、2月デビューのビハインドを覆してオークスで頂点に立った名牝。デビューは「2回京都の最後か、1回阪神までには」(西浦師)とのことだが、ハルノヒダマリには11年前の奇跡を思い出させてくれる走りを見せてほしいものだ。