▲岡助手(左)と渋田助手(右)“常勝軍団”矢作厩舎の強さの秘密を明かします
『2016年全国リーディング 特別企画』
2014年以来、2度目のリーディングに輝いた矢作厩舎。調教師、ジョッキー、スタッフ、門下生らのインタビューから、“厩舎力”に迫る特別企画。今週は厩舎の屋台骨、渋田康弘助手と岡勇策助手のスタッフ対談・後編です。
矢作厩舎の特徴は、年間500回を超える出走回数。これは他の厩舎を大きく上回る数字です。それでいてきっちり勝利するだけでなく、競走中止などの事故も圧倒的に少ない。驚異の仕事をやってのける“技術力”に迫ります。
(取材・文:不破由妃子)
(前編のつづき)
矢作厩舎には“エース”がいない
──矢作厩舎といえば、勝利数もさることながら出走回数が群を抜いていて、なおかつ競走中止などの事故が少ない印象があります。それこそ“技術力”だと思うのですが、それを可能にしている具体的な取り組みを教えてください。
渋田 僕たちスタッフは、何も特別なことはしていません。でもね、なぜこんなに勝てるのか、去年の入院中に気づきました。実際に働いていると、目の前の1勝に向かってそれはもう必死で、なかなか俯瞰(ふかん)で見ることができなかったんですが、病院のベッドの上でタブレットを見ていたら、先生の恐るべき頭脳が見えた(笑)。
岡 えっ? 何が見えたんですか? 教えてくださいよ!
渋田 調教ダイアリーを見ていたら……
──調教ダイアリーとはなんですか?
渋田 入厩していない馬についても、それを見ればすべての馬の動向がわかる矢作厩舎独自のシステムです。僕が休んでいるあいだもブッチ切りのリーディングだったので、正直、自分が帰る場所はもうないな…と落ち込んだ時期があって、競馬を観るのがつらくなってしまったんです。それで、調教ダイアリーだけを見ていたら、あるときハッとしましたね。
馬の入れ替えの順番などがものすごく緻密に計算されていて、今月は何勝できるかが見えるんですよ。だいたい当たりましたね。すべては先生の計算通りというか。
岡 確かに、先生はすべて先を見越して動いてますよね。2、3カ月先はもちろん、先生が病気になったとき
「うちの厩舎は2、3年は大丈夫や」とおっしゃっていたので、それくらい先まで見通して馬の仕入れをしているんだなと思いました。